漁業後継者を育てる



 私は、内容が自分の主義主張に反しない限り、学校の内と外とを問わず、頼まれた仕事はあまり断らないようにしている。昨年7月4日に、そうして書いた最近の文章を紹介したのを覚えておられる方もあろう。その後、11月末だったかに、漁船保険中央会という所から、水産高校の現状と水産業の後継者育成問題について一文を書いて欲しいという依頼があった。そういうことを語るのは私の仕事の一部だからと引き受け、12月末に原稿を送った。

 というわけで、拙論「水産高校で思っていること・・・漁業後継者を育てる」の載る『波涛』No,181(2014年1月30日発行)というのが手元に届いた。原稿用紙40枚という比較的大きな仕事で、ここに全てを引用できないし、拙著『それゆけ、水産高校!』(成山堂書店、2012年)やこのブログの記事との重複も当然多いので、結語【今後へ向けて】の部分だけを引用しておくことにする。どうしても全文を読みたいという方は、漁船保険中央会のホームページに公開されていないので、コメント欄を使って私に直接言って下さい(メールアドレスを必ず記入すること)。


 「水産業や海運が将来的に重要な産業であるにもかかわらず、水産高校の不人気が続いていることに対して、私たちは何をすべきだろうか?

 ひとつは、広報・宣伝活動の強化である。

 中学生は、水産業に対する先入観、偏見を持っている。数が少なく、県内のほとんどの人々にとって身近でもない水産高校は、知らない学校である。かくいう私も、兵庫県で中学校時代を過ごし、高校受験を考えた時、県内にひとつだけあった水産高校(香住高校)の存在は知っていたが、学校の中身については無知だった。だから、私たちが宮水の宣伝活動に行き、中学生に水産高校の概要や海の可能性についての話をすると、目を輝かせる生徒も少なくない。

 問題は、中学校主催の「高校の先生の話を聞く会」に行っても、たいていの場合、水産高校に多少なりとも興味のある生徒だけが集められた場所で、私たちが話をするしかないということだ。これが、希望に関係なく、全ての中学生に水産高校の説明をする機会があれば、状況は大きく変化するのではないかと思う。だから、広報・宣伝活動と言った場合、中学校の先生方の理解と協力が不可欠だ。

 中学生が、何かしらの事情で学科選択を行い、その学科についての情報しか集めなくなったら、視野も見識も非常に狭いものになってしまうだろう。スケールの大きな人間、壁にぶち当たったときにそれを突破できる人間を育てるためには、むしろ、知らない分野、興味関心のない分野にこそ触れさせる努力が必要だ。最終的に水産高校に進学するかどうかは二の次として、中学校の先生方には、そのような姿勢で進路指導をしてもらいたいものだと思う。

 この点について、最近手応えを感じているのは、船員になることについてだ。前章で書いたとおり、船員の確保は大切な問題だが、その仕事の魅力をあらゆる高校説明会に参加して訴え、船員経験を持つ教員に書いてもらって、「コラム」として県教委のメールマガジンや、宮水のホームページで発信したところ、宮水に目を向ける子供達の中では、船の魅力が確実に受け入れられてきているようだ。宮水の1年生が12月に類型選択を行う際、船員になることに結び付きやすい航海類型・マリンテクノ類型を希望する者は着実に増えている。今年の1年生では、ついに両類型ともに定員を満たすことになった。11月に実施したオープンキャンパスでは、これらの類型に希望者が集中し、体験授業を行う上で調整が必要な状況も生まれた。

 もうひとつは、全県からの生徒受け入れ環境の整備である。

 宮城県にあるもうひとつの水産高校=気仙沼向洋高校は、航海と食品のクラスしか持っておらず、「水産4分野」をそろえているのは宮水だけである。当然、全県からの入学が可能だ。しかしながら、寮がない。東日本大震災で被災し、宮水周辺の下宿が廃業してしまったことや、仙台と石巻とを結ぶ大動脈・JR仙石線がいまだに不通となっていることは、宮水の置かれた状況を更に悪化させた。現在、JR石巻線を使って大崎や仙台方面から通っている生徒も少数いるが、かなりの無理を伴う。各地の高校説明会で宮水の話をすると、強い興味関心を示してくれる中学生・保護者は少なくない。しかし、最初に受ける質問は、決まって「寮はありますか?」というものだ。

 「食材王国みやぎ」を現場で支える人材を育てるためには、水産・海運業に対する高い目的意識を持った生徒を集める必要がある。県民に対して公平性を確保する必要もある。そのためには寮が不可欠だ。県が、基幹産業として水産業を大切にし、その人材を高校レベルでも養成しようという意思があるのなら、お金を惜しんでよい部分ではない。そもそも、水産高校は、多くの実習施設を必要とするため、膨大な経費のかかる学校である。中途半端にお金を惜しみ、寮を設置しなければ、逆にその経費を生かすことができず、ただの無駄遣いに終わってしまう。今の県の政策は、水産・海運業を石巻の地域産業として限定的に位置付け、石巻界隈の浜の漁業後継者を育てればよいという、極めて古風なものであると感じる。

 そして最後に、言うまでもないこととして、私たち自身も、時代の変化に応じた授業内容を考え、実践していかなければならない、ということである。これについては、魚食型調理師養成を目指す「調理類型」の創設や、6次産業化を意識したカリキュラムの設定、知的財産権教育の導入といった形でいろいろと行っているところであるが、宣伝ばかりで中身がない、ということにならないよう、今後も努力が必要な部分である。

 以上、長々と書いてきたが、水産高校を考えることは、日本の水産・海運業の将来を考えることであり、それはとりもなおさず私たちの生活を見つめることである。水産高校の不人気をどうすればよいのか、多くの方のお知恵を拝借したいと思う。」