沖の船で楽しんだ日曜日



 朝起きて、女子サッカーの試合が終わり、ふと気が付くと、いつになく沖にたくさんの船が浮かんでいる。小型のタンカーが多いが、ガス運搬船や巻き網船もいる。台風が近付いている時などにはよく見られる光景だが、今日はべた凪に近い。どうしたのかなあ、と思いつつ目を凝らすと、その中に、巨大なサルベージ船のような船がまじっていた。被災地のサルベージ船需要は既に終わったはずだ。しかも、よりによって、どうしてあんなに沖に浮かんでいるのだろう、と思いつつ、我が家の8倍の双眼鏡で見てみると、それはフェリーらしき客船であった。煙突から盛大に煙を噴き上げていて、目が非常に悪い私には、それが、サルベージ船の大きなアームに見えたのだ。

 白い船体に朱に近い赤で大きな太陽の絵が描いてあるので、なんだか見たことのあるデザインだな、としばらく考え、商船三井の「さんふらわあ」であると気付いた。茨城県の大洗と北海道の苫小牧を行き来しているフェリーだ。運行ダイヤの問題もあって、日頃、我が家からその姿を見ることはない。それにしても、なぜこんな所(石巻沖)でなんか停泊しているのだろう?

 あわてて、PCで商船三井フェリーのホームページを見てみた。船の形から、我が家から見えるのは深夜便である「しれとこ」か「だいせつ」(約11400トン)だと分かった。天候により遅れが生じている、との書き込みがあったが、海は至って平穏なので、それは信じられなかった。何時から停泊しているのかは分からないが、時刻表を見ると、1:45に大洗を出港した船ではないかと思われた。それが、何かしらの事情で動けなくなり、停泊しているらしい。

 妻といろいろ推測してみるが、どうしても不思議で気になるので、電話で問い合わせてみることにした。ところが、フリーコールの予約センターも、大洗や苫小牧のターミナルも、東京の旅客営業部も電話に出ない。あきらめてしばらく見ているうちに、煙突の煙が止まった。双眼鏡で見ていると、デッキに人がたくさん出ているように見える。かといって、ヘリコプターも救助船も現れない。ひどく静かだ。背後を、苫小牧発仙台行きの太平洋フェリーが、定刻に通過していった。

 10時頃になって、ついに詳細を観察すべく、天体望遠鏡をセットした。口径12センチの反射望遠鏡である。3年ほど前に、震災の激励で友人からもらった手作りの望遠鏡だ(→参考)。友人も、まさか、フェリーの観察に使用されるとは思っていなかっただろう。上下左右が反転して見えるのは具合が悪いが、8倍の双眼鏡よりははるかに細かいところまでよく見える。30倍からスタートし、倍率を上げていった。あまり倍率を上げると、像が暗くなるし、海面上であることもあって、空気の揺らぎでかえって見えにくくなってしまう。130倍まで上げたが、結局、60倍が最も鮮明に観察できた。船は「だいせつ」らしい。左舷のアンカーが下りている。デッキにたくさんの人、と見えたのは、実は人ではなく、様々な機器類であった。人影はない。

 そろそろ情報が流れているかと思い、あらためてネットで検索してみたが、商船三井のホームページはもとより、どこにもそれらしき情報が載っていない。それどころか、朝、確かに見たはずの「天候により〜」というお知らせも消えている。正午のTVニュースでも話題にならない。謎はますます深まった。

 買い物その他で外出しても、帰宅するとまず船の存在を確かめ、様子を観察するということを繰り返した。

 午後4時過ぎ、煙突から再び煙が立ち上り始めた。4時半を少し過ぎた頃、船首のところにオレンジ色の服を着ていると思しき二人の人影が動き始めたと思ったら、船はゆっくりゆっくり動き始めた。左舷が陰になってしまい、アンカーを上げるところは見ることが出来なかった。朝、最初に見つけた時よりも煙がずいぶん少ないので、やはりエンジンの不調で停止したのかも知れない。船は反転すると、北東に向かって去って行き、やがて水平線に消えた。

 自分とは何の利害関係もない一隻の船を気にしながら、落ち着かない1日を過ごしたようにも思うし、それで十分に楽しませてもらったようにも思う。それにしても、船の運航状況って案外オープンに周知されないものなのだな。そのことが発見と言えば発見の変な日曜日であった。