避難訓練コンサート?!



 昨日、備忘録と言うべき大学ノートを手にしたところ、挟んであった紙がはらりと落ちた。そうそう。先月末、秋田に行った時に見つけて、あんまり面白かったので、記念に一枚持って帰ってきたコンサートのチラシだ。

 その名も「避難訓練コンサート」。そのタイトルの下には、「コンサート中に地震が発生・・・あなたは、その時どうしますか?」とある。出演は秋田南高校吹奏楽部、8月16日(日)、秋田県民会館、無料(要申込み)、訓練コンサート開始13時(?コンサート開始 ?避難行動 ?再入場)→コンサート再開13時45分と、けっこう細かいスケジュールが書いてあって、さほど思いがけないタイミングで地震が発生したりはしない(笑)。アホくさいなぁ、と笑ってしまった。

 おそらく、避難訓練をすれば、県か市から助成金が出るというようなシステムがあるのだろう、高校吹奏楽部の演奏会を開くのに、できるだけ持ち出しを少なくしようと、避難訓練を演奏会に組み込むというアイデアを得た、と私は想像した。帰宅後、ネットで調べてみると、そのような助成金の存在が発見できないどころか、全国各地で「避難訓練コンサート」なるものが相当数開かれていることが分かり、秋田でチラシを手にした時よりも更に強い驚きを感じてしまった。同じ会場で毎年繰り返し行われている例もあることなど考えると、ホールの所有者・管理者が、自分たちの責任を意識し、災害時の想定をするための実験をしているという風でもない。

 もはや笑う気にはならない。むしろ、湧き起こってきたのは、震災後の様々な現象に対して感じているのと同様のおぞましさや嫌悪感だ。大きな災害があったとなると、ここでもあそこでも、災害の心配ばかりしていないと気が済まないという、一種の社会現象である(→参考記事)。

 秋田では、そのわずか2ヶ月後にも、アトリオンというホールでプロらしき音楽家たちによる「避難訓練コンサート」が予定されている。こちらも無料。ご丁寧に「参加条件・ご注意事項」として、「本公演の趣旨にご賛同いただき、公演中に行われる避難訓練に参加していただける方。」、「動きやすい服装と履物でご参加ください。」、「未就学児は参加できません。」などと注意書きがしてある。

 未就学児不可というコンサートは少なくないが、そのほとんどは、数千円以上の料金を徴収するクラシックの演奏会だ。このコンサートでの「未就学児は参加できません」は、他の注意事項との並び具合を見ても、避難訓練の際に面倒だからではないかと想像する。

 あらかじめの注意など、すればするほど訓練の意味はない。現在は学校の避難訓練でも、抜き打ちでやるところが増えていると聞く。我が宮水でも、まったくの抜き打ちではないが、事故発生の時間には幅を持たせるようになっている。

 私は、そんなコンサートには行きたくないな。避難訓練に参加することを条件に、ベルリンフィルを無料もしくは廉価で聴かせてあげます、というのでもいうならともかく、本当に音楽が聴きたいのであれば、途中で邪魔が入るのは、その前の時間が落ち着かないことも含めて願い下げだ。演奏会の最中に避難が必要となるほどの災害・事故が実際に発生する確率の低さ、まして大怪我や死亡に至る確率の極端なまでの低さを考えると、仮に逃げられなくて死んだとしても、それによって平時が邪魔されないことの方がはるかに大切だ。(→参考記事

 まったく、私の理解をはるかに超えて、世の中はおめでたい。