札沼線で雪景色見物

 1日おいて北海道の続き。
 北海道に行ったのは、調べてみれば15年ぶりである。とても意外だ。数年ぶりといった感じだ。真夏以外の北海道を訪ねたのは初めてである。爆弾低気圧に当たったら嫌だなぁ、と思っていたが、むしろ気味悪いくらい暖かい、異様な北海道だった。着いた土曜日なんか、港近くにある日本製紙の工場の煙突から、煙がまっすぐ立ち上っていた。雲もない、正に無風快晴。雪は一応積もっているが、道路には乾いている所も多く、春に石巻を歩く時と同じ格好で何ら差し支えがない。
 さて、当初の目的を果たした翌日、日曜日は、まず朝からJR札沼線(さっしょうせん)に乗りに出掛けた。私は、全国の鉄道完乗を目指していたりはしないし、日本地図で自分が乗った路線に赤線を引いていくなどという趣味も持ち合わせていない。だが、田舎の鉄道にコトコト揺られながら、地図を片手に景色を眺めているのは好きなので、旅行先で時間があれば、その土地の鉄道に乗ることに時間を費やすことが多い。そして今回は、時間の許す範囲で乗れる未乗区間が、札沼線だったわけだ。
 札沼線は、札幌と新十津川とを結ぶ76.5キロの長大な盲腸線(行き止まりの路線)である。「札沼線」の「札」は札幌、「沼」は石狩沼田(JR留萌線)であるが、新十津川〜石狩沼田が1972年に廃止されたので、「名」が「実」を表していない。盲腸線となったのはその時からだ。沿線に北海道医療大学北海道教育大学といった大学があるので、1991年から「学園都市線」という愛称が付いた。
 札幌から北海道医療大学前(以下、大学前と略)までは電化されていて、30分に1本くらいの密度で電車が走っているが、非電化区間である大学前〜新十津川は、1日に3本しか走っていない。しかも、どんな利用を想定しているのか知らないが、通勤通学とも全然関係のない時間帯のダイヤ設定で、利用しろと言う方が無理、といった感じである。更に、今月26日のダイヤ改正で、1日1往復に減便されるという話も耳にする。もはや利用は実質的に不可能だ。
 JR北海道発表の収支報告書によれば、札沼線非電化区間の営業係数(100円の収入を上げるために必要な経費)はなんと2162で、留萌線の増毛〜留萌に次いで北海道ワースト2、輸送密度(1日当たりの利用者数)81はワーストだ。私は札沼線の非電化区間を、現在北海道で、いや、全国で最も廃止に近い路線とにらんでいる。それも、わざわざ乗りに行ってみようかと思った理由のひとつだ。
 しかし、約80キロのローカル線を往復するのは時間もかかるし、第一、同じ場所の往復というのが面白味に欠ける。幸い、地図を見てみると、列車の便のよい函館本線滝川駅新十津川駅は3〜4キロしか離れていない。歩いても移動できそうだし、タクシーを使っても負担は小さい。事前によく調べなかったが、もしかすると、バスがあるかも知れない。というわけで、最終的に、次のように動いた。

札幌8:00(特急スーパーカムイ3号)8:52滝川9:00(中央バス)9:11新十津川町役場前(徒歩5分)新十津川駅9:41(普通列車ディーゼルカー1輌)11:03石狩当別11:37(普通列車=電車3輌)12:15札幌

 誰もいないかも知れないと思っていた新十津川駅には、私が着いた時、既に3人の人がいた。その後、私以外に3人増えて7人になった。地元の利用客はゼロで、みんながみんな、私と同様、札沼線に乗ることを目的に来たとおぼしき「鉄分の多い」人だ。私と同じバスに乗っていたのは2人。他の人はタクシーで来た。みんな、同じ特急列車を降りた人たちだと思う。下り列車がホームに入ってくるとびっくり仰天。着いた列車は「混んでいる」と言っていいほどの人が乗っていた。しかも、やはり地元の住民らしき人はゼロで、みんな手にカメラを持った「鉄ちゃん」である。
 列車は、折り返し乗車をする数人と、新十津川からの7人、合計15人あまりを乗せて定刻に出発した。その後、終点の石狩当別までの間で、乗車してきた地元の方(らしき人)はたった4人である。日曜日だからこそ「鉄ちゃん」もいるが、平日に果たして乗客がいるのかどうか・・・?これで大赤字は当然である。
 沿線に何があるわけでもない。それでも、雪に覆われた静かな田舎の風景は、それなりに魅力的だった。生意気にも(?)空調(除湿)装置が付いているのか、外と車内の温度差は大きいはずなのに、窓がぜんぜん曇ってこないというのもとてもよかった。駅名看板というのは、少なくともJR北海道では、その駅の名前だけが平仮名と漢字で書いてあり、前後の駅は平仮名でしか表記されていない。あまり予備知識を持たずに行って、平仮名書きの駅名看板を見ながら、次の駅は漢字でどう書くのかなぁ、などと考えるのも北海道ならではの楽しみだ。「ちらいおつ」「しもとっぷ」「おそきない」「さってき」「おさつない」「さっぴない」・・・さあ、どう書くでしょうか?(答えは自分で調べる=笑)
 1日3本のディーゼルカーには、終点のひとつ手前である大学前か、石狩当別で札幌行きの電車が接続していて当然だと思うが、なぜか接続はない。わざわざ利用しにくくしているようなものだ。ちょうどお昼時ということもあって電車の運行間隔が広く、乗り換えには30分の待ち合わせ時間があった。石狩当別は、駅だけが異様に立派で、周りに広がる「市街地」は、閑散としたものであった。電化区間は、電車も風景もまったくありふれた大都市近郊路線だ。乗客も多く、混み合ってきた。12:15定刻に電車は札幌に着いた。