少し興が醒める・・・角田宇宙センターへ行く

 今日は、朝から電車に乗って、宮城県の南の方、角田市という所にあるJAXA宇宙航空研究開発機構)の一般公開に行った。7月に尾池先生のロケットエンジン開発に関するお話を聞き(→こちら)、実物を見たことがないからイメージできないなぁ、などと思い、よく考えてみれば、角田にJAXA(正式には「角田宇宙センター」)があるのは知っていながら、見学にも行ったことがないなぁ、JAXAは角田だけではないはずだが、角田のJAXAって何やっているのかなぁ、などと思いつつ、ホームページを開いてみると、真っ先に「一般公開」の文字が目に入った。と、その日から、私は見学に行くことに決めて、他の予定を排除していたのである。
 船岡駅で電車を降りると、シャトルバスに乗ろうとした人が30人もいなかったので、こんなイベント知っている人そうそういるはずがないよな、と思ったが、JAXAに着いてみるとものすごい人である。ほとんどの人は、やはり車で来るのだ。いったい、どうやって知ったのだろう?
 まず最初に、先着370名という構内バスツアーの整理券をゲットすべく、真っ直ぐに受付に行った。この時、受け付け開始(=一般公開開始)の20分前であったが、既に長蛇の列である。これは厳しいな、と思ったが、係の人が、私の数メートル後ろで「この辺がグレーゾーンです。整理券が無くなってしまったらごめんなさい」と言っていたので、やれやれ私は大丈夫、と思っていたら、私の5人前で終わってしまった。バスを降りる時、降りる順番をちょっと人に譲ったのが明暗を分けてしまった。午後にも420枚の配布があったが、諸般の事情で、受け付け開始5分後に行ったら、既に「終了」の看板が出ていた。行列していた人々の会話に聞き耳を立てていると、首都圏から来た人も多いようだ。びっくり!
 だが、このバスツアーに参加できなかったことは、実はあまりショックではなかった。というのも、JAXAの研究者による講演が3つ用意されていて、バスツアーに参加すれば、希望通りの時間の整理券が手に入ったとしても、そのうちの1つは聞けないことになり、どちらを優先させるべきか、けっこう心の中では激しく葛藤していたからである。整理券が手に入らなかったことで、迷いはなくなった。しかも、この研究施設の敷地は広大なので、30分のバスツアーでは、しょせんたいした説明があるわけもなく、上っ面をざーっと眺めておしまい、という状況が容易に想像できた。
 講演は3つともちゃんと聞いた。以下の内容である。
1)「3000度の炎に耐えろ!ロケット試験スタンド開発」
2)「宇宙と人と衝撃波」
3)「太平洋を2時間で横断できる極超音速旅客機の研究開発」
 これらが、11:00、12:45、14:15から、1時間ずつ行われる。これらにきっちり出ると、残された時間はごくわずか。しかも、講演も席取りが必要な状況だったので、他の見学時間はほとんどなかった。しかし、実際に公開されている施設はごく一部で、展示物も少ないので、なぜあんなに人が来るのかな?とも思った。
 講演は、興味深い画像(動画)を見せてくれたりして、まずまず面白かったのだが、先日の「ちきゅう」を始め、今までに見たどの研究機関よりも、利益追求の姿勢を感じて少し興醒めだった(特に講演3)。パワーポイントの資料を配ってくれなかったので、少し記憶は曖昧だが、講演1では、冒頭で「宇宙航空産業を将来の基幹産業に!」という言葉が出てきたのにまず驚いた。「将来、人間が月へ進出して生活や調査をする時に〜」とか、「世界中の人が待ち望んでいる極超音速旅客機〜」とかいう言葉を聞くと、「えっ?正気か?」と聞き返したくなる。極超音速旅客機は液体水素エンジンを使うから二酸化炭素を出さない、ということが、講演者の映すプロモーションビデオに2〜3回出てきたが、これも「正気か?」である。その水素をどうやって作るのだ?どうやって水素を液化するのだ?液体酸素はどうする?・・・もちろん、その場で質問すればよかったのだけど、ますますがっかりしそうだったので、質問しなかった。
 3つの講演で、一貫して感じさせられたのは、経済成長の思想、人間の欲望をかき立て、それを満たすことが社会的な「善」という思想であり、日本がその最先端を走るのだ、という姿勢であった。私は、「ちきゅう」に600億円をかけても、H-Ⅲロケットの開発に1900億円かけても、決して高いと思わない、すなわち納税者として異論は無いが、それは純粋な知的好奇心を満たすため、もしくは自然に目を向けることで人間に謙虚さをもたらすためのコストとして高いとは思わないだけであって、それによってより大きな利益が得られる、という下品な発想なら、途方も無い金額だと感じる。以前からよく言うとおり、「損得と真偽は矛盾する」のである(→例えば)。大きな利益をもたらす大規模プロジェクトであればあるほど、それは人間を窮地に追い込んでいくだろう。
 もっとも、私がまじめにものを考えれば、その考えはことごとく世間と逆になるのが常なので、私が講演を聞きながらいちいち不満と疑問を感じていたということは、世の中にとっては本当に夢のある素晴らしいお話だった、ということになる。
 そうそう、角田宇宙センターにロケットの本物は無かったが(角田市の中心部に近い台山公園という所に行くと実物大模型があるらしく、シャトルバスも動いていたが、時間が無くて行けなかった)、エンジンや燃料タンクはあった。ターボポンプの断面模型もあって、先日尾池先生から見せていただいたベアリングが、どこにどのように取り付けられているのかはよく分かった。と言うわけで、文句はあったが、いい勉強もした。ただ、やっぱり興醒め。