宇宙開拓を支える摩擦学・・・ラボ第26回

 昨日はラボ(正式にはラボ・トーク・セッションなのだが、私はこの横文字風になじめないので、略称と意識せずにラボと呼んでいる)の第26回であった。講師は、国立の某ロケット研究機関の主幹研究開発員・高田仁志(たかださとし)氏、演題は「宇宙開拓を支えるトライボロジー(摩擦学)」であった。

 なにしろ個人2人が主催で、参加費は酒を含む飲食付き1500円、定員は25名というささやかなる会である。そうそう黒字が出ようわけもない。そこで、基本的には「お前たちが来てくれと言うなら、タダでも行ってやるぞ」みたいな個人的につながりのある人しか講師には呼べない。今回の講師・高田氏は、そんな中にあって少し例外である。数年前、私が先生の所属する研究機関の一般公開に行った時、ロケットエンジンの燃焼実験を行う施設を案内してくれたのが、たまたま高田先生だった。9月初めの暑い日だったのだが、ものすごい汗をかきながら、ロケットについて熱く語ってくれたのがとても印象的だった。単に「熱く」というのではなく、話そのものも面白かったし、何より「ロケットのことだったら何でも俺に聞いてくれ」というような自信も強烈なインパクトだった。名札に書かれた「高田仁志」という名前は、短期記憶の衰えが激しい私の脳にも、しっかりと刻み込まれた。

 それから半年だったか1年だったか経った頃、ラボの講師に誰を依頼するかという相談をしていた時、ふと思い浮かんだのが先生の名前である。知らない人のところにでも、ロケットを語るためなら来てくれそうな気がした。共同主催者も賛同してくれたので、私は意を決して電話をした。その後、多少のやり取りがあって、2020年4月のラボ第23回の講師を引き受けていただくことができた。

 ところが、なにしろ2020年春である。学校も一斉休校になってしまったあの時期、ラボを開催することはできなかった。その後、2度くらい、ラボ再開という話は出たのだが、会場が借りられなかったり、日程まで決めて準備を始めたのに感染者数が増加し始めて中止となったりしながら、2022年10月にラボはようやく再開にこぎつけた。しかし、感染症対策下でのラボがどんなものになるのか見当がつかなかったし、先生との日程調整もうまくいかなかったので、再開ラボも3回を重ねてから、いよいよご登場となったのである。私が最初に電話を差し上げてから実に3年半である。

 2日前の13日、高田先生から「未だに、作った資料は90ページを超えている状況ですので、1時間講演用に、当日まで削り続けます」というすごいメールが届いた。熱気あふれる講演にならないわけがない。おかげさまで「満員御礼」。しかも、参会者全員が、開始予定時刻の2分前までにそろった。いくら参加者の質を誇るラボでも、これは珍しい。

 高田先生は、ものすごい勢いで話し続けた。おそらく1分間当たりの単語数は、普通の人、いや普通に早口の人の2倍を超えていたのではないか?日本の航空・宇宙開発の歴史から始まって、宇宙空間の性質、ロケットエンジンの仕組み、そこにトライボロジーがどのように関わっているかなどなど、「立て板に水を流す」どころか、「ケルヒャー」のような勢いで言葉が噴き出してくる。予定の1時間を10分過ぎた頃には、私もちょっと困ったなと思うようになったのだが、17分過ぎたところで、先生は無理やりお話を終わらせてくれた。最初の歴史に関する部分が長く、肝心のトライボロジーに関する説明が少なかった、あるいは、難しい割に速すぎたため理解が追い付かなかったのは少し残念だったが、参会者は圧倒されて聞き入っていた風だった。

 懇親会が終わると、最近恒例の二次会。参会者の半数が参加し、更に5人が三次会へ。店から「閉店です」と言われて外に出た時には、午前1時を回っていた。高田先生は、最後までよく食べ、よく飲み、よく話した。そして解散した時には、「今から仕事をしようか、どうしようか」とのたもうていた。既に50歳になっているはずだが、驚くべきエネルギーである。こういう方によって日本のロケット開発は支えられている。あるいは、こういう方でなければできないのがロケット開発、ということだろうか?隅から隅までびっくり。