もうかればいい(1)

 アメリカの次期大統領、トランプという人は、温暖化問題には非常に冷たいらしい。温暖化が人間の経済活動によって引き起こされた可能性が高いこと、いや、それ以前の問題として、温暖化が進行していることについても否定的なのだそうだ。脱退を表明したTPPに続き、パリ協定からの離脱も取り沙汰されている。
 オバマ現大統領側の不愉快表明を押しのけて、早々にトランプ氏と会談した日本の首相は、「トランプ氏と馬が合う」と言ったそうだ。リップサービスではなさそうなところが怖い。温暖化問題について日本の首相は、トランプ氏ほど否定的なことは言わないが、それは、環境問題をもうけのネタに使おうという魂胆が強くあるからに過ぎない。経済に比べれば地球環境なんてどうでもいい、と考えていることについては同じである。
 10月31日、観光庁は今年の訪日客が、初めて推計で2000万人を突破したと発表した。これだけでもすごい数だと思うのに、政府はまったく満足できないらしく、東京オリンピックが開催される2020年には倍増の4000万人を目指すのだとか。これだけの人数が、仮に飛行機だけで来るとすると、1機250人としても、現在で80000機、2020年には160000機が飛ぶことになる。その石油消費量を考えると、気が遠くなって倒れそうだ。しかも、その人たちが移動し、ホテルに滞在すると、普段通りの生活しているよりもはるかに多くのエネルギーを消費するはずだ。これでいて、パリ協定の厳しいハードルを越えられるとはとても思えないが、首相には何か秘策があるのだろう。もっとも、その秘策は正直に言えば「ごまかし」でないはずがない。
 これで思い出すのが、今年の8月、宮城県の村井知事が台湾にセールス旅行に行き、現在約5万人の台湾から宮城への旅行者数を、2020年には20〜25万人(4〜5倍)にしたいとぶち上げた話だ。昨年度の旅客311万人、貨物取り扱い0.6万トンだった仙台空港を、550万人、2.5万トンにするという県の長期目標も、本当におめでたい。
 更に、そのことから思い出すのは、9月26日の河北新報に載った、現在JRの宮城野貨物駅がある場所に、県は防災拠点を作り、貨物駅をJR岩切駅近くに移すという議論が大詰めを迎えているという大きな記事だ。新しい貨物駅の予定地は田んぼである。市の中心部近くに防災拠点を作り、JR貨物は高い地価の土地を売って安い地価の土地を手に入れ、後継者不足に悩む農家は農地が手放せて大喜び。河北は「県OBは『県、JR貨物、岩切地区の3者全てが喜ぶ仕組みになった』と知事の政治手腕に舌を巻く」と書く。私なんかは、え?また田んぼつぶして大規模土木工事やるの?これを本当に「政治手腕」って言うの?と唖然とした。食糧自給率38%の国で、環境の危機も迫る中、見識の高い政治家がやるべきことではない。
 環境や資源なんてどうでもいいのだ。大切なのはたった今の経済成長。平たく言えばもうかること。ただただ金。それ以外に価値なんてあり得ない、というのが彼らの価値観だ。そしてもちろん、それが安倍個人、村井個人の価値観ではなく、有権者の意思なのだという点が恐ろしい。投票率が低かろうが、得票数がいくらであろうが、私はあまり関係ないと思う。選挙は相対評価なわけだし、投票率が低いことも含めて、彼らはやはり大衆の心を映す鏡なのである。そしてトランプ氏の当選は、そのような悲劇が日本だけのものではないことをさらけ出した。
 環境問題は、おそらく、人類の命運のかかった大問題である。だが、虫のいいこと、目先のことだけを考えていたら、絶対に回避出来ない。一つの種が永遠に繁栄を続け、神の存在を脅かしたりすることのないよう、神は本当に上手く、人間に愚かさを仕組んだものだと思う。