今度の学校(続)・・・携帯電話のことも

 キャンパスが二つあるということについて、少しだけ続ける。
 前回書いたとおり、東西二つのキャンパスは、一つの学校の二つのキャンパスとして作られたのではなく、もともと二つの学校だった。だから、全ての施設が両方にある。特別教室や図書館、保健室のみならず、事務室も校長室も食堂もである。学校内に一人しかいないというのは、校長、事務長、図書館司書だけで、あとは教頭も養護教諭実習助手も庁務員も、それぞれのキャンパスに別々にいる。教務部長とか進路指導部長といった人も一人しかいないが、それらはしょせん係分担だし、彼らがいるのとは別のキャンパスに副部長がいて、それぞれで動いているので、一人しかいないからどうこうという感じはしない。校長は月水金が西で、火木が東だ。事務長はずっと西にいる。司書は不定期に行ったり来たりしている。
 私は2学年に所属している。3年生は、普通科もビジネス科も西キャンパスなので問題ないが、1・2年生は、普通科8クラスが東、ビジネス科2クラスが西と分裂している。学年主任は多数勢力である東にいる。ビジネス科に副主任がいて、一応、学年としてのくくりを保っているが、少なくとも私には、ビジネス科2学年に対する仲間意識は一切ない。先週土曜日の学年PTA集会は西で10クラス合同で行ったが、それを唯一の例外として、普段は存在そのものを意識する機会がない。修学旅行も、日程は同じだが目的地が違う。
 学校統合によって調整されなかったのは、キャンパスだけではない。部活動もだ。男子校と女子校にあった部活動を、ほとんど全て(全て?)残した。その結果、部活動の数は46に上り、12人の教員が複数の顧問を兼務している。体育館も校庭も二つあるので、活動場所に困らないのが幸でも不幸でもある。
 学校の主役は生徒である。肝心なこの点について、私の印象はすこぶるよろしい。事前のイメージとしては、とても「中途半端な学校」なのであるが、今や「穏やかで平和な日本を象徴する学校」に変わっている。
 3月28日、引き継ぎと事務手続きのために、初めて塩釜高校に行った時、校長が、「これがいいことかどうかは分かりませんが」と断った上で、「この学校にヤンキーは一人もいません。制服をだらしなく着ている子も一人もいません。スカートの短い女の子もいません。学校の中だけのことだろうと思っていましたが、街で会ってもスカートを短くしていたりはしません。1200人が集まって全校集会をしても、非常に静かで、物音一つしません。」と言っていた。
 半信半疑で新学期を迎え、さすがにその言い方は極端だな、と思った。しかし、「ヤンキー」と言えるほどの生徒は見ないし、女子生徒のスカートも他校生に比べれば、信じられないほどまともに長い。第一ボタンを外し、ネクタイをだらしなく締めている生徒さえごくわずかだ。化粧、茶髪もゼロとは言わないが、ほとんどいない。廊下ではよく挨拶をしてくれる。
 過去数年間の模擬試験の成績とかを見せてもらうと、決して「成績優秀」な学校ではない。国立大学合格者も、一般入試はほぼゼロ、AOや推薦で片手の指の数くらい入るか入らないか、というレベル。私立大学には相当数が進むが、学年の4分の1は就職だ。進学や就職を意識してあくせくガツガツしている生徒はおらず、穏やかで節度ある善良な典型的日本人が、ニコニコと楽しく平和な学校生活を送っている。私にはそのように見える。
 何より私にとって精神衛生上いいのは、携帯電話使用についての節度である。この点に関しては、学校の姿勢もよい。年度の初めに、以下のような通知が保護者と生徒に出されている。(要点のみ)


携帯電話については、SNSによる中傷・いじめが発生するほか、無機質な文字に頼りすぎるために表面的な交友関係しか築けないという人間関係のゆがみを招く、知らない者同士が不特定多数の情報交換をすることで、考え方のゆがみが引き起こされる等の報告がある。よって、本校では以下のように指導する。
・携帯電話は始業時間前に電源を切り、ロッカーかカバンに入れる。
・校地内での利用は、昼休みに部活動、生徒会の連絡をする時に限る。
・保護者が生徒に連絡を必要とする時は、直接本人ではなく、学校に連絡を入れる。


 「言うは易く、行うは難し。」普通に考えれば、今時の高校生や保護者にこれらのルールを守らせることは至難だ。ところが、特に教員が厳しく圧力をかけている感じもしないのに、ごく当たり前のこととして守られているのである。私は、今のところ、放課後以外に教室で携帯電話を使っている生徒を見たことがない。授業開始の数分前に教室に行っても、「やべぇ」とか言って、あわてて携帯電話をしまう、という光景はない。授業中にこっそり、という気配も一切感じない。始業から放課まではないのが当たり前、という雰囲気が全校を支配しているのである。
 授業中は良くも悪くも非常に静か。寝ているというわけでもない。うなずきながら聞いている生徒も多く、こちらの話に合わせて、教科書のページをめくったり、ノートに字を書いたりするので、勉強にそれなりに向き合っていることが分かる。ただし、いくらこちらがけしかけても、意見や質問を述べる生徒はいない。ひどく従順で受動的な感じがする。今は、落ち着いていていいなぁ、と思って見ているが、このことが手応えのなさとして、やがて不満に思われるようになるのだろうか?