函館に行く

 教員免許更新講習「選択領域」を受講するため、この6日間、函館に行っていた。先日書いたとおり、残り単位は18で、所要3日なので、6日間とは言っても、往復に2日、遊びに1日、合計6日である。
 いったいどんな授業が受けたくて、わざわざ自費で函館まで・・・?という話は後回しにする。
 函館に行ったのは39年ぶり。前回行った時の話は、函館の町についてではないけれどこちらに書いた。その後、北海道に行く機会は何度かあったが、なにしろフェリーに乗れば苫小牧、飛行機に乗れば千歳と、いわゆる道央に着く。昔、寝台特急が走っていた時代も、行き先は札幌で、函館にはもっと乗っていたいと感じる時刻に着いてしまう。距離的には札幌よりも近いはずだが、なかなか行く機会のない町なのである。
 断固として「旅行は線」主義者の私としては、今回もどのようにすれば楽しく函館に行けるかを考えた。ところが、新幹線開通後の函館は、本当にどうしようもないくらい到達手段選択の余地のない場所である。時刻表片手に、ありとあらゆる可能性を考えたが、経費・所要時間という現実的条件も合わせて考えると、どうしても楽しい方法は見付けられなかった。結局、次の通り。

往路(8月16日):石巻9:35−(仙石線)−10:59仙台11:08−(はやぶさ11号)−12:37新青森(徒歩)青森フェリーターミナル14:20−(津軽海峡フェリー)−17:30函館17:45−(函館バス・途中乗り換え)−18:20JR函館駅

復路(8月21日):函館9:49−(函館ライナー)−10:11新函館北斗10:49−(はやぶさ18号)−13:29仙台14:16−(仙石東北ライン)−15:17石巻

 青森までバスというのも考えたが、新幹線で「お先にトクだ値」という早割切符を予約すると、青森まで25%割引になる。バスより2000円ほど高いが、所要時間は3分の1以下。しかも、バスは窮屈で、楽しい移動の手段でもない。私は大の新幹線嫌いで、盛岡以北に乗ったことがなかったこともあり、まぁ1回くらいいいか、と新幹線にした。北海道発の帰りは、8月20日まで「お先にトクだ値」が使えない。21日の切符だと30%割引になる。元々の切符が高価なので、1泊のホテル代より、割引分の方が大きい。そのこともあって、函館で遊ぶ日を1日取った。つまり、最後の1泊は実質無料なのである。
 新幹線は確かに速いが、特に盛岡以北のつまらなさはお話にならない。トンネルと防音壁ばかりで、景色が見えていたのはおそらく走行時間の10%にもならないだろう。しかも、見える部分が断片的なので、それがどの辺りの景色なのかも分からない。ははぁ、これで「速くなってよかった」と大喜びしていられる人は、ほとんど全てがトンネルというリニア新幹線に抵抗を感じないわけだ。
 函館〜新函館北斗の連絡列車のダイヤも信じがたい!「連絡」列車なのに、なぜ乗り換え時間が40分(新幹線の入線までなら30分)近くもあるのだろう?新函館北斗駅の在来線ホームと新幹線ホームは隣接していて、誰でも5分で乗り換えが可能である。私は、新函館北斗駅に大きなお土産屋さんフロアか何かがあって、そこで買い物をさせるための策略なのではないか?と勘ぐっていたのだが、あったのは小さなキオスクだけであった。待合室もなく、ホームの椅子もほんのわずかで、みんな半時間もの間、ぼーっと立って過ごしている。いくら屋根があるとは言え、冬は更につらいはずだ。ひどい!!
 往路、青森から船に乗ったのは、津軽海峡の横断を実感してみたかったからである。昔、青函連絡船で往復した時には、どちらも深夜便で景色が見えなかった上、眠りこけていて、船に乗ったという実感さえ持てなかった。
 青森〜函館は、青函連絡船が廃止になった後も、自動車(主に長距離トラック)運搬の需要があるため、2社によってフェリーが運航されている。ひとつは青函フェリー(以下「青函」)、もう一つは津軽海峡フェリー(以下「津軽」)だ。その違いを比較してみよう(両者とも何隻かの船を持っている。以下は私が乗った、もしくは乗ったかも知れない船の場合である)。

青函:約2000トン、200人乗り、所要3時間50分、1800円(クーポン利用)
津軽:約8000トン、600人乗り、所要3時間10分、2880円(ネット割) 

 青森のフェリー埠頭は、両者が隣り合わせだが、函館は離れている。「津軽」の函館港の方が「青函」の函館港より、JR函館駅からはかなり遠い。「津軽」の3時間10分は、夏の多客期だけのもので、通常は3時間40分である。
 私が1000円も高い「津軽」を選んだのは、船が大きくて酔いにくそうだとか、タイムスケジュールが好都合だった、という理由ではない。以前、水産高校で就職係をしていて、「青函」からは求人票をもらったことがないが、「津軽」には何人かの生徒を採っていただいたからである。
 残念ながら、船には高いポイントをあげられなかった。
 一番安いスタンダードというクラスは、カーペットルームである。20人定員の部屋が16ある。とてもきれい。しかし、全ては内向きで、部屋に入ると外は一切見えない。海の見える通路には椅子があるが、これが左右合わせて40しかない。最初の椅子取りに失敗すると、景色が見たければ立っているしかない。大きな船の割には、その他のスペースにも余裕がなかった。船の最前部で、飛行機のファーストクラス並みのシートがある「ビューシート」というクラスを選ぶのが、一番コストパフォーマンスがいいのではないか?と思った。
 函館港には搭乗橋がなく、旅客は自動車を下ろす所から外に出る。これ自体は悪くもなんともないのだが、悪いのは「車優先」である。最初に収益率のいい(からかどうかは不明だが)「お車のお客様」が「お降りになり」、その後、もうけにならない徒歩客が「下船させていただく」。私は日頃から「車優先」を批判している。それは効率優先、利潤優先、人間軽視の日本社会を象徴するからだ。車の客は下船後どうにでもなるが、徒歩客は制約があり、時間もかかる。私も、30分に1本の路線バスに間に合わないのではないかといらいらした。この点は大きなマイナスポイントだ。
 卒業生には会えなかった。イルカも見られなかった。それでも、初めて津軽海峡を船で渡ったという感慨はあった。青森では久しぶりに青空と太陽を見ることができて感激したが、着いた函館は仙台同様、どんよりと曇って霧雨が降り、少し寒かった。