頑張れ!翔傑

 7月7日付け朝日新聞の投書欄(「声」)で、一つの記事が目に止まった。翔傑という力士についての投書だ。見出しは「連続出場966 翔傑は郷土の誇り」となっている。
 読めば、静岡県出身の力士「翔傑」(41歳、芝田山部屋)は、1995年の初土俵から23年間、1番も休むことなく966回連続出場中なのだという。投書の主も書いているとおり、幕下以下では1場所7番だから、966という数字は1場所15番の関取の記録よりかなり重い。投書は名古屋場所が始まる前のものなので、今は連続出場も971番まで延びている。
 ひどく気になったので、ネットを始めとする身の回りのもので調べてみたところ、確かに、1995年の入門以来1番も休んでいない。それでいて、最高位は西幕下4枚目で、現在は西三段目44枚目だ。日本相撲協会に所属する力士は全部で683人いるが、上から数えて278番目、下から数えると406番目という位置にいる。丁度上から40%に当たる。ちなみに相撲界で一人前と言われる関取=十両以上は70人なので、そこに至るまでにはあと200人余り抜かなければならない。
 投書の主は、翔傑の実家から数百メートルの所に住み、本人を直接知っているらしい。「気は優しくて力持ち」の典型的人物であるようだ。「彼の実績と人柄は日本相撲協会に寄与するところ大だと思うので、引退後は、ぜひとも厚遇をもって協会職員にしてほしい」と書く。
 いやしくもプロ・スポーツの世界である。実力こそが「実績」だ。と考えれば、20年以上相撲を取って一度も関取になったことがない翔傑に、「実績」などあるものではない、ということになる。だが、逆の見方をすれば、関取になれないにもかかわらず、休むことも腐ることもなく20年以上にもわたって相撲を取り続けてきたことは、確かに、それだけで十分に価値であるとも思う。しかもこの間、八百長あり、暴力あり、賭博ありで、たびたび世間の不興を買ってきた相撲界である。20年以上、給料さえもらえない低い地位にありながら、愚直に相撲に向き合い続けてきた人間の存在は、なおのことその価値が輝いているようにも思える。
 なにしろ、本場所の取り組み開始時刻は8:30頃である。幕下以下の取り組みは午前中に終了する。従って、投書で「いまだに頭から突っ込む迫力満点の立ち会いと正攻法の取り口は若々しい」と評される翔傑の取り組みを、テレビで見ることもできない。新聞にも結果は載っていない。インターネットで結果を知るしか手がないのである。今回の名古屋場所で、私は初めてインターネットで幕下力士の結果を調べるようになった。今場所の翔傑は、今日10日目までに5番取って2勝3敗だ。残りはあと2番で、2連勝しないと負け越し、また番付を下げることになってしまう。さもない力士の取り組みの結果に一喜一憂する私がいる。全国で、この投書を読んでそんな気持ちにさせられている人が、少なからずいるのではあるまいか?
 あと2勝できますように・・・。