今夏のお手紙教育(2)

 ところが、なかなか時間を確保するのは容易でない。教科書のテキストを中途半端にしたまま夏休みに入るわけにもいかず、しかもそれが非常に微妙な状況だったため、今年、手紙の書き方授業に割けたのはせいぜい30分である。実は、申し込みの際、「授業を見学させてもらえますか?」みたいな質問があって、私は「はい」に○を付けたが、JPからの問い合わせはなかった。せっかく多くの教材を提供してもらいながら、それらを使った授業が30分にも満たないのでは、わざわざ見に来てくれても申し訳がない。見学可と回答する人は多くないだろうから、来るのではないかと思っていたが、結果として来なくて助かった。
 授業でまじめにやったのは宛名面の書き方だけである。人間というのは、目に見えているものが見えているとは限らない。目の付け所というものを予め確認し、意識していなければ、見えるものも見えないのである。医学部の解剖実習が、ただ切り刻んでスケッチを書け、というだけでは済まないのは、そのことをよく表している。
 過去の経験から考えると、教えなければ、多くの生徒は、はがきのぎりぎり右端からほとんど余白なしで住所を書く。JPからもらった「手紙の書き方」というテキストに書かれた例を見ても、郵便番号欄の右端より内側、差出人についても、同じく郵便番号欄の左側に収めるというのが原則だ。だから、そのことと、宛名はできるだけはがきの中央に来るようにする、住所の上端よりも宛名の上端の方が、一般的に1文字分くらい低いが、文字は宛名の方が大きい・・・といったことを確認するのである。
 その上で、実習として夏休みの宿題を提示する。それは、私宛に暑中見舞いを書く、ということだ。以前は、年賀状を使ったりもしていたが、年賀状は「喪中だから出せない」とか出てきて面倒くさいし、好きな相手に書いてよい、とすると、課題としてのチェックが大変だ。そこで私宛の暑中見舞いにしたのである。生徒に与えた指示・条件は次のとおり。

・文面の書き方も含めて、付属の冊子「手紙の書き方」を参考にする。
・ただの「ご挨拶」だけではなく、「夏休みの生活」「進級してから夏休みまでの生活」「現代文の授業」のいずれかについて、どのようなことをしたかと、その感想、抱負、要望などを書く(簡潔でよい)。
・様式は自由だが、すべて自筆であること。(PC使用不可)

 授業課題なのだから、宛先は私とした。夏休み中ということもあるので、私は自宅の住所を公開し、そこに送るように指示した。
 そして、ここからが実は私のオリジナルである。
 JPが生徒に「手紙の楽しみ、喜びといったことをしっかりと経験して欲しい」というのは、私自身の願いでもあるが、果たして、はがきを書くことでこの目的は達成されるのかな?と疑問を抱いたのだ。それらは、手紙を受け取ることでこそ、初めて得られるのではないのだろうか?
 そこで私は、今年、生徒諸君に「必ず返信する」と宣言したのである。とはいえ、受け持っている生徒は240人。全員に返信するとなると、12,480円かかる。授業でやっていると思うと、ポケットマネーは少々バカバカしいようにも思う。そこで、私は、「手紙の書き方体験授業」で生徒1人当たり2枚のはがきをもらえることに目を付け、かもメールと普通の官製はがき各1枚を請求した。そのうち官製はがきを生徒に配って、私宛の暑中見舞い用とし、かもメールは、私が生徒への返信に使うことにしたのだ。もしかするとこれはJPにとって想定外かもしれないが、目的外使用にはならないから許されるはずだ、と思った。
 当初は、返信用のはがきを一度生徒に配り、宛名面に自分の住所を書かせ、もう一度回収して使おうとも思ったのだが、自分の字で宛名の書かれたはがきが届いても嬉しくないだろう、よし、240通は大変だが、いちいち宛名を私が書こう、と腹をくくった。(続く)