自分の体に耳を傾ける

 5月の10日頃に「シンスプリント」という診断を受けてから、ほとんど3週間近く、走ることなく大人しくしていた(→その時の記事)。しかし、痛みがすっかり引き、違和感もなくなったので、そろそろ少し走ってみようかと思い、5月31日、学校を起点に定番の加瀬沼コース(8.5キロ)を走りに行った。足もともかく、3週間近く走らずにいると心肺機能が低下しているだろうなぁ、と、おっかなびっくり走りに出たのだが、意外に辛いという感じがしない。足の痛みはもちろんない。加瀬沼から多賀城政庁跡を通って引き返してくる頃には、1キロ5分ペースにまで上げたが、気持ちよく学校まで戻ることができた。
 池澤夏樹に『クジラが見る夢』という本がある(七賢出版、1994年)。世界で初めて、素潜りで100mに達したジャック・マイヨールとともに過ごし、その言動を記録した本だ。その中に、マイヨールが水深100mを実現させるプロセスについて書いた次のような一節がある。

「100mを超えるなど生理的に不可能、論外な話だと学者まで含めてみんなが考えていた。肺の中の空気は水深100mの圧力を受ければ10分の1に押し縮められる。胸郭はそれに耐えられない。そこまで行って帰ってくる長い時間の酸素の供給遮断に脳は耐えられない。そういう議論を全部承知の上で、ジャックは深く潜った時の自分の身体の反応に耳を傾け、いわば自分の身体と何度となく親密な議論を重ねた上で、できるという結論に達した。記録を少しずつ伸ばしてゆく時、どこかで限界が来る。それはわかっているが、しかしそれは普通の人が考えているよりもずっと深かった。ジャックは実際に100mまで潜り、臆病な学説をひっくりかえした。」

 私はこの「自分の身体の反応に耳を傾け」「自分の身体と何度となく親密な議論を重ねた」というフレーズが大好きだ。そして、分野もレベルもまったく異なるとは言え、私もまた常に自分の身体状況を静かに窺い、対話をしている。
 総体の翌日、6月4日は代休だった。相変わらずとても天気がいい。総体期間中の山登りが順調だったこともあり、久しぶりに、登り口までも含めて牧山に走りに行くことにした。この間、休日に牧山を「歩き」には行っていたが、その時も、登り口までは自転車を使っていたのである。
 嘘のように調子がよかった。まったく苦しいとか痛いとかいうことなく、余裕を持って1時間20分で自宅に戻った。
 休むということは本当に大切なのだな、と思わされた。シンスプリントというのみならず、1月か2月以来断続的に続いていて不愉快だった、ふくらはぎやアキレス腱の付け根の痛みもすっかり消えていた。
 なんとなく疲労がたまっていたのだな、と思った。同時に、私は大丈夫だという意識が強すぎて、走る時に準備運動も整理運動もしないのはやはりまずいのではないか、とも思った。そんなことに気が付けたのは、この3週間のおかげ。
 市民レースに出るわけでもなく、学校にマラソン大会という行事があるわけでもない。健康と気分転換のためだけのジョギングである。無理せず、楽しく走れるように、今回の反省を生かそう。