突き抜けたところ

(11月16日「学年主任だより№26」より①)


 毎週末、土曜日か日曜日のどちらか、天気さえ良ければ、牧山という山に走りに行く。我が家から北上川を渡って尾根の先端部まで20分。そこから、よく整備された気持ちのいい山道を、傾斜に応じて走ったり歩いたり、約25分で標高250mの頂上に着く。シカやウサギには時々会うが、人に会うことはほとんどない。頂上には車道が通じていて、立派な神社がある。今は紅葉の季節なので、けっこうたくさんの車が来ていて、多くの人で賑わっている。
 本当に風情があって美しいのは山道の方なのに、特に足が悪いわけでもなさそうな人たちが、どうしてこんな所で満足してしまうのかな?と、私なんかは不思議に思う。少し手間をかければ素晴らしいものが手に入るのに、楽であることを優先させてそのことに気が付けない。日常生活の中に、案外そんなものは多いのかも知れない。


*明日UPするつもりの記事が非常に長いので、今回の「学年主任だより」は両面バージョン。最後に少しだけスペースが残ったので、10月28日付け河北新報「世界最長レース 日本人が初完走」を貼り付け。
平居コメント:どう考えても楽しいレースには思えないが、人間の持つ「力」に圧倒される。想像を絶する世界だ。びっくり!!

(ブログ用の補足)
 ネットで探せばこのレースの性質については知ることが出来るのだが、簡単に書いておく。
 正式には、「シュリ・チンモイ自己超越3100マイルレース」と言う。「シュリ・チンモイ」とは創始者の名前らしいが、その詳細については見つけられていない。
 「世界最長」の3100マイルとは4989㎞で、これは東京=バングラデシュもしくはアラスカに相当する。それを52日以内に走る。25回目を迎えたこのレース、今年は9月5日に始まり、6:00~24:00、毎日走り続けた。52日の制限時間をフルに使ったとしても、1日あたりの走行距離は96㎞に及ぶ。100㎞マラソンを毎日、1ヶ月半以上も続けるのと同じだ。
 これだけでも、いかにすごいレースであるかというのは分かるのだが、私が面食らったのは、アメリカ横断とか、中米縦断とかいうのではなく、ニューヨーク市内の883mの周回コースをひたすらぐるぐる回っている、という点だ。しかも、このレースのために一般人立ち入り禁止ではなく、平日は付近にある高校の生徒が登下校する中を走るらしい。
 今年の参加者は7名。うち完走5名。その中に、初めて瀬ノ尾さんという日本人が入ったのだという。タイムは51日12時間50分52秒。参加7名中5名の完走者の最後だった。1位はイタリア人で、なんと43日目にゴールしたというから、記録は42日+α(=探せない)、1日あたり110㎞をおそらく超えている。
 瀬ノ尾さんはゴール後、「禅のように何も考えずに走った」と語っていたというが、当然だろう。1㎞に満たない周回コースを5649周もするとなれば、正に「禅」以外の何ものでもない。
 TJAR(日本アルプス縦断レース)と言い、サハラ砂漠の横断レース、パタゴニアのマラソン大会と言い、世の中では過酷なレースが花盛りだ。普通の生活があまりにも安逸で手応えがないため、あえて過酷な「挑戦」を求め、自分が生きている実感を得ようとするのだろう。暇で退屈の行き着くところ、とは思うものの、自分では絶対に出来ないことだし、ここまでハードルが高くなると、「暇な奴らだな」を超えて尊崇の念が湧き起こってくる。どんなことでも、それを極端まで推し進めると、大きな価値を帯びるものなのだな。