自転車のための条件整備を…ツール・ド・東北

 「半休筆」宣言をしたのが8月18日。その後、ダラダラと多少の記事を書き続け、いよいよ公私ともに多忙が極まって、この2週間ほど書けずにいた。少し思い出しながら、生きている証拠に書いておこう。
 先週末は「ツール・ド・東北」というイベントがあった。石巻専修大学を起点に、遠くは気仙沼まで往復するという自転車イベントである。「レース」と書けると分かりやすいのだが、タイムも順位も競わない「歩け歩け大会」みたいなものなので、自転車イベントとしか書きようがない。
 私は参加していない。友人・知人は何人か参加していて、「おまえは出ないのか?」みたいな声は掛けられたが、参加費の高さもさることながら、友人・知人の持っている自転車の値段を聞いてみると、一番安い自転車でも15万円。私は確かに、半径10キロ以内は出来るだけ自転車で移動するように心がけているのだが、乗っているのは2万円あまりのママチャリ。いくらレースではないと言っても、時間制限はある。とてもでないが、20万円の自転車と一緒に、アップダウンの激しいリアス式海岸の道路を走る自信はなかった。
 メインとなる日曜日は、朝から結構強い雨が降っていた。この季節の東北の雨だから、冷たい雨である。イベントの様子を思い浮かべながら、このコンディションは気の毒だな、と思った。自分が参加しないので、あまりコースをきちんと確認していなかったのだが、今年はコースが変わったようだ。昨年は日和大橋を越えて、旧門脇町方面に向かう多くの自転車が見えたが、今年は1台も見えない。
 レースではなく、従って賞品・賞金が出ないのはもちろんのこと、名誉さえ得られない。にもかかわらず、全国から4000人近い人が集まるというのはすごいことだな、と思う。この人たちが、日頃、どのような生活をしているのか、すなわち、自転車を日常的な足にしているのか、自家用車生活をしながら、特別な時間だけ自転車に乗るのかは知らない。ただ、エネルギーと環境との問題から車と飛行機に冷たく、自転車に比較的好意的な私としては、なんとなく心強い感じがする。
 しかし、三陸沿岸の海の見える道路を自転車で走るのは、このイベントの時以外にはなかなかに難しい。道幅が狭く、地形の性質上カーブが多くて見通しがきかないのに、車は相当なスピードで走っていて、非常に危険だからである。先日少し書いたが、日本では「自転車は車道」と決めておきながら、それに見合った条件整備をしないので、現実にはこれまた危険で不愉快な歩道を走るか、自転車をあきらめるしかないのである。「自転車は車道」というのは、歩行者と接触すると危険だからということで、それはそれで当然なのだが、どうも「事なかれ主義」のにおいがぷんぷんする。自転車専用道路や自転車専用レーンを多く作り、列車にも自転車が持ち込めるようにしながら、環境問題の改善をしようというヨーロッパはやはり偉い。健康にもいいし、一石二鳥、三鳥なのに、結局、日本は、経済効率だけが優先なのだ、と、少し哀しくなる。
 本当は「ツール・ド・東北」が、そのような社会問題の発信の場になればいいのに、と思う。震災の語り部や、復興への発信、地元の食のアピールを悪いとは言わないが、それだけで済ますのはもったいない。参加者たちも、そんなことをもっと口にしてくれればいいのに。いや、もしかして、20万円とか50万円とかの自転車に乗っていると、車と車道を一緒に走ることに違和感がないのかな?