苦闘、南アルプス(1)

 1週間更新をしなかった。早々と夏休みを取り、単独で南アルプスに行っていたのである。昨日午前ようやく下山して、深夜に帰宅。
 今年は1学年の担当である(=進路に関するドタバタがない)。部活は山岳部が廃止となり、ボランティア部(正式名称:インターアクト同好会)の顧問になったものの、夏休み中は活動がない。これは「梅雨明け10日」(安定した晴天が続き、雷の発生する確率も低いと言われる梅雨明けの10日間)に活動するチャンスだ、と思うようになったのは、先月の末くらいのことである。
 何をしようかな、どうせ家族はそれぞれ勝手なことをしていて私と遊んでなんかくれないし・・・とあれこれ考えているうちに、そうそう南アルプスに行こう、と思い立った。
 私は、「市場」を唯一の例外として、人がたくさんいる場所が好きではない。山も同様である。だから、日本で一番登りたくない山が富士山で、日本アルプスも敬して遠ざけてきた。ところが、いつ誰からだったかは憶えていないが、「南アルプスは違うよ。あまりにも山が深いから、荒川岳から南なんて、ハイシーズンでもそんなに登山者いないって・・・」と知恵を吹き込まれたのである。確かにそうかも知れない、と思った。そこで、漠然ととは言え、友人と南アルプス行きの約束などもしたこともあるのであるが、当時はやや肥満傾向もあったし、自分の体力になかなか自信が持てず、結局それを実行に移すことはなかった。
 何度か書いたとおり、南極行き(→参考記事)を目指した生活管理とトレーニングのせいであろうか?最近は体型も理想的で、体調頗る良好。よし、南アルプスに行くチャンスがあるとすれば今年しかないな、と思うようになった。しかし、人と休暇や歩行ペースを合わせるのは至難。人に迷惑をかけるのも嫌だ。できるだけ自分のペースで歩けるように1人で行こう、60歳までなら許されるだろう、と思った。

 ガイドブック(ヤマケイアルペンガイド『南アルプス』)と地図を見ながら、滅多に行く機会など持てないのだから、この際「王道」とも言うべき主脈をできるだけ長く歩くことにした。それは、広河原というところから入って、日本第2の高峰・北岳に登り、ひたすら南下するというものだ。最南端は光(てかり)岳と考えてよいのだろうが、さて、本当にそこまで行けるかな?

 いろいろな情報をもとに考えてみると、山中8日間の時間が必要と思われた。しかも、私はテント泊で、日数分+アルファ(予備・非常用)の食糧その他も担がなくてはいけないのに、「30~50歳の人が山小屋利用(=おそらく食事付きであることも意味する)1泊2日程度の荷物を携行して歩き、休憩や食事の時間を含まない」とされるコースタイムで、11時間近くも歩かなくてはならない日を含む。
 結局、最南部の茶臼岳と光岳はあきらめ、聖岳までを6日間で歩くという計画とした。それでも、「11時間」の部分を含む厳しいスケジュールだとは思った。ちなみに、部活引率以外で2泊3日を超える山行と言えば、20年前の層雲峡~トムラウシ温泉(山中3泊4日)までさかのぼる。
 山域が山梨、長野、静岡の3県にまたがるので、事前に、それぞれの県警あて登山計画書を送付するわけだが、備考欄には「ダメだと思ったら最寄りの登山口に下山する。無理はしないというのを原則とする。また、宿泊についても、幕営不可の塩見小屋以外は幕営を原則とするが、状況によっては安易に小屋に避難する」と書いた。これは恥じらいであると同時に、不安というか自信のなさというかを表していたと思う。
 というわけで、計画は次のとおりであった。なお、本当は7月27日(土)出発のつもりだったが、台風が来たため、1日ずらしたものである。

7月28日(日)石巻6:35→JR→13:39甲府14:05→(バス)→15:58広河原(幕営
7月29日(月)広河原→八本歯のコル→池山吊尾根→北岳→池山吊尾根→北岳山荘(幕営
7月30日(火)北岳山荘→間ノ岳→熊ノ平→塩見岳→塩見小屋(小屋泊)
7月31日(水)塩見小屋→三伏峠烏帽子岳→小河内岳→高山裏避難小屋(幕営
8月1日(木)高山裏避難小屋→荒川中岳赤石岳→百間洞山の家(幕営
8月2日(金)百間洞山の家→兎岳→聖岳→聖平小屋(幕営
8月3日(土)聖平小屋→聖岳登山口→椹島ロッジ13:00(バス)→14:00畑薙ダム14:25→(バス)→17:50静岡駅18:39→(JR)→23:25石巻

 これは、過酷なコースであると同時に、豪華なコースでもある。なにしろ、日本に21座(下に注)しかない3000m峰のうち、6つの頂上(上の下線部。全て深田久弥選定の日本百名山)に立つことになるからである。(続く)

 

注)山の数を数えるのは難しい。至近距離にある複数の頂上を、それぞれ独立した山と数えるか、まとめてひとつの山と数えるか、といった問題があるからである。例えば、荒川岳には荒川前岳(3068m)、荒川中岳(3083m)、荒川東岳(3141m)という3つの頂上がある。前岳と中岳は徒歩10分という距離で、高さも15mしか違わず、中間部分(鞍部)もえぐれていないので、それぞれを独立峰と数えるには明らかに無理がある。しかし、中岳と東岳には1時間あまり、標高で58m(1度鞍部まで下るので、実際には170mくらい)の差があり、東岳は荒川東岳と呼ばれるよりも、「悪沢岳」と呼ばれることが一般的だ。こうなると、それぞれを別の山と考えた方がいいと言う人も出てくる。というわけで、ここで21座としたのは、あくまでもWikipedia「日本の山一覧(3000m峰)」による。ちなみに、そこでは荒川岳を中岳と東岳で2座と数えている。前岳は独立峰とされていない。山全体の一体性から、私ならそれらを1座とし、独立峰として数えられている北アルプスの中岳、南岳も、独立峰と言うより尾根の一部というような感じなので外し、18座と数える。すると、今回の山行では、その3分の1を踏破することになる。