あまりにも早すぎる!

 昨日は、会議も文書の締め切りもない、仕事の上で空白の一日だった。休暇を取り、他校の登山部顧問と3人で、蔵王に酒を飲みに行くことにした。今回泊まるのは、仙台一高井戸沢小屋ではなく、東北学院大学TGヒュッテ。井戸沢小屋から井戸沢を挟んでほぼ向かい側に当たる。入山口である澄川スキー場からは、TGヒュッテの方が手前になるので、スキー場から、2時間くらいで行ける。
 例によって石巻の某酒店で「伯楽星」(本社は大崎市三本木、蔵は宮城郡川崎町)を買う。宮城には美味い酒がたくさんあって、「これ」でなければならない、というようなものはない。が、その美酒名酒の中でも「伯楽星」は、美味いというだけではなく、入手が難しい。三越や藤崎といった仙台を代表するデパートの酒売り場にも、仙台駅1階の地酒屋にも置いていない。ところが、我が家の近くの某酒店は、この酒を常備しているのである。
 この酒は、裏ラベルに「特約店販売」と書かれている。聞けば、「特約店」は13軒しかないのだそうだ。某酒店では、プレミアなしの平凡な値段で「伯楽星」が買える。どこに持って行っても、この酒の価値(味+希少性)を知っている人はとても喜んでくれるので、何かにつけて買いに行くことになる。というわけで、蔵王に行くというのは、「伯楽星」を飲むため、みたいなものなのである。
 異様に暖かい二日間であった。特に昨日は、標高1100mの澄川スキー場で車を降りると、暖かい上に無風。アウター(レインウェアの上)も着ず、手袋も着けずに歩き始めたのだが、すぐに汗が噴き出してきたので、一応積雪期の山だからと履いていたズボン下を脱ぎ、腕まくりをした。スキー場はかろうじて営業しているものの、雪はべたべたのシャーベットで、あちらこちら地肌も見えている。
 リフトを使わなかったが、2時間でTGヒュッテに着いた。予報どおり、天気は急速に悪化し、小雨が降り始めた。標高1450mの場所で「雨」である。
 井戸沢に水汲みに行き、戻って昼寝をし、夕方から「せり鍋」を作って目的の酒を飲み始めた。ヱビスビールのロング缶を1本ずつ空け、「伯楽星」を飲み、それがなくなるとワインを空け、10時に沈没。酒の飲み過ぎで水をたくさん飲むので小用の回数が増え、夜中に3度ばかり外に出たが、ずっと小雨が降っていた。
 今日は少し気温が下がり、強い風が吹いていた。雨は上がり、8時過ぎからは薄日が射し、9時を過ぎると青空も見えるようになってきた。天気がよければ刈田岳の山頂を目指すことにしていたが、風が強いので止め、そのまま下山することにした。気温が少し下がったとは言っても、やはりアウターも手袋も要らない。下りは早い。小屋からわずか1時間でスキー場の下に着いた。
 酒を飲む以外に目的というものがない、なんとものんびりとしてぜいたくな時間を過ごした。実は私、前からTGヒュッテには泊まってみたいと思いつつ、なかなか実現しないまま時間が経っていた。今回初めて、それが実現したことも収穫だった。山小屋にも個性がある。他人の小屋は新鮮だ。
 青根温泉で風呂に入り、近くのそば屋で「寒ざらしそば」を食べ、塩釜駅で車を降ろしてもらって帰宅した。驚いたことに、我が家の桜(ソメイヨシノ)が開花していた。
 今年は暖冬だったため、桜の開花が早いとは予想されていたことで、仙台では、数日前から間もなく開花だ、と言われていた。しかし、石巻は仙台に比べると開花がかなり遅く、しかも、我が家は石巻でも遅い方だ。驚いたことに、仙台でも今日、気象台によって開花が発表されたようだ。仙台と同じ日に我が家で開花というのは信じがたい。しかも、その仙台でさえ、平年より14日早く、1953年に観測を始めて以来最も早い開花なのだという。まったく何もかもが異常である。
 これはまずい。既に、「恒例 平居家花見」なるイベントを、今年は4月11日に開催する旨案内してしまっているのである。今から2週間。いくら明日から気温が下がるとはいっても、開花から2週間、花が持ちこたえるとは到底思えない。いくら「散りしをれたる庭などこそ見どころ多けれ」などと言ってみたところで、花はあるに越したことはないのである。今春の歩みはあまりにも早い。