悩ましきWikipedia

 3日ほど前、ウィキメディア財団というところからメールが来た。「一年前、あなたは¥1,000を寄付してくださることで、ウィキペディアが引き続きその価値を何億もの読者に届けることを叶えてくださいました。あなたの変わらぬご支援に感嘆するとともに、心から感謝いたします。寄付してくださるのは読者全体のわずか1%ですが、あなたはその貴重な一人です。そして今年もまた、あなたのお力添えが必要です」と書かれている。
 多分、私がネット上の百科事典・ウィキペディアの運営母体であるウィキメディア財団に寄付したのは、昨年だけではない。この4~5年の話である。年にわずか1000円ではあるが、日頃からお世話になることも多いので、知識の対価は払わなければ、という思いだ。ウィキペディアは、論文の典拠には使えないけれど、使いやすいだけでなく、典拠がだいたい明記してあることもあって、良心的で比較的信頼できる事典である。収録されている語彙・項目数の豊富さも魅力だし、英語版や中国語版まで机上でパッと使えるのはありがたい。辞書にも百科事典にも図鑑にもなる。
 私は、即座に、今年も1000円だけ寄付しようと思った。が、その直後に、これはいいことなのかな?と思って踏み止まった。
 ウィキペディアの画面上に、寄付を求めるメッセージが掲示されるのを時々目にする。上に引いたメールによれば、それを見た人の1%だけが寄付に応じるという。私はその貴重な1%だけだったわけだが、なぜその1%が、残り99%に奉仕しなければいけないのだろう?そもそも、ウィキペディアが無料であるというのはなぜなのだろう?もちろん、それは何かしらの事情で運営理念に盛り込まれているのだろうが、それが本当に必要な情報であるなら、有料にすればいいのだ。会員制であれ、1検索あたりいくらであれ、である。
 世の中には、インターネット情報は無料が当たり前、という風潮がある。画面の周囲に映り込んでくる広告によって利益を得ているからいいのだ、とも。いつだったか、新聞記事で、情報提供者側の話として読んだのだが、200円にするか500円にするかではなく、無料を1円にするところに大きなハードルがあるらしい。
 もちろん、私にも事情は分かる。有料サイトにお金を払おうと思えば、クレジットカード情報を登録しなければならず、それが適切に管理されるかという不安や、退会する時はスムーズにできるだろうかという心配が湧き起こってくるからである。1円でも1000円でも、支払うのにかかる手間とリスクは基本的に同じだ。
 1000円を払う能力がないわけではない。簡単なことだ。一種のボランティアだと思えば、さほど抵抗を感じる必要はないのかも知れない。だが、やはり、知識の対価は受益者が払って当たり前という状況を作ることも大切だと思う。今、その間で揺れ動き、迷っているところ。