ニコライ・カプースチン

 10月4日、新聞のテレビ欄を見ていたら、「クラシック音楽館」の欄に「追悼ニコライ・カプースチン」とあるのが目に止まった。カプースチンってどんな人だろう?「クラシック音楽館」だから、クラシック音楽に関係するのは間違いないが、恥ずかしながら作曲家であるか演奏家であるかさえ知らない。仕方がないので(?)見てみることにした。
 ロシアの作曲家(元々はピアニスト)である。見てみてびっくり仰天。滅茶苦茶に面白い。ジャズと出会い、それを自分の音楽に取り入れて曲を作り続けたらしいが、全くその通り。ロシアの雰囲気など微塵もない。むしろアメリカ。バッハ(ドイツ)も時々混じっているかも・・・。
 この作曲家に心酔し、わざわざロシア語を勉強して作曲家の元に渡り、日本で楽譜を出版するなど、この作曲家を世に知らしめようと尽力しているのは、川上昌裕というピアニストである。この方も私は全然知らなかった。あぁ、世の中は広いのだな、とため息をつく。もっとも、だからこそこうして新鮮な驚きも感じることが出来る。
 さっそくCDを1枚買った。川上氏の録音は高いので(ゴメンナサイ)、マルク・アンドレ・アムランという人が弾いたものである。Hyperion(イギリス)から出ているフランス製の「Nicolai Kapustin Piano music」というベスト盤のようなCDだ。
 自宅から70㎞も離れた所に82歳の母がいて、生活の支援(買い物等)を必要とする状態なものだから、最近ほとんど毎週そこに行く。「生活支援」に必要なので、できる限り車は使わない主義者の私としたことが、本当にやむを得ず車で行く。高速道路を使うと片道1時間弱、使わないと2時間だ。暇なつもりはないのだが、一般道路を通って行くことが多い。お金の問題もさることながら、高速道路は仙台港のあたりから南(仙台東部道路)がコンクリート舗装になっていて、うるさいから嫌いなのである。
 というわけで、その時間は私の音楽鑑賞タイムだ。この1ヶ月近く、繰り返し繰り返しひたすらカプースチンを聞いていた。まだ飽きない。番組の中でも取り上げられていたが、彼の代表作らしい「8つの演奏会用練習曲」がやはり最もいい。エネルギッシュでリズミカルで、聴いていて本当に楽しい。Wikipediaで調べると、「24の前奏曲とフーガ」などという魅力的なタイトルの曲集があったり、協奏曲もけっこう作っているようだ。こんなジャズ風の曲を作る人の書いたバッハもどきのタイトルの曲(バッハはジャズと相性がいい)や協奏曲って一体どんなものなんだろう、と好奇心がかき立てられるが、録音を探してみるとなかなか高価なので、今のところ手を出せずにいる。
 番組の中で川上氏は、楽譜の出版に当たってカプースチンの1音1音へのこだわりを語っていた。作曲家として当然だと思う。しかし、概して激しく速い、「ノリのいい」曲が多いわけだから、番組で紹介していたようなわずかな音価(音符で指示されている音の長さ)の違いなんか、おそらく普通の人には聴き取れないだろう。また、ジャズの影響を受けていると言うだけあって、曲想は極めて即興風だ。私のような凡人には、聴きながら曲の構造なんて把握できない。こうなってくると、1音1音がこうでなければならないという必然性なんてどれくらいあるのだろうか?と思ってしまう。まぁ、それでも十分に面白いからいいのだけれど・・・。
 1ヶ月間、ずいぶん繰り返し音楽を聴いたとは言っても、実は、作曲者の名前がなかなか憶えられない。というのは、20世紀初頭、帝政ロシアの末期に暗躍して「怪僧」と呼ばれた「ラスプーチン」という人物の名前とごちゃごちゃになって、「カスプーチン」だか「カプスーチン」だか「カプースチン」だか分からなくなってしまうのだ。ファンになりつつある人間にとって、なんとも情けない。今日これを書いたことで憶えられるかな?「カスプーチン」もとい「カプースチン」。