牡鹿半島の牡蠣

 そう言えば、書こうと思いながら忘れていたのだが、先週の土曜日、朝から牡鹿半島の狐崎という浜に行った。ここの某氏の所から、毎年お歳暮の牡蠣を全国10軒ほどに送っているのである。お金の支払いに行けるタイミングが、この日しかなかった。
 牡蠣の産地と言えば、広島県宮城県、そしてその宮城県ではまず第1に松島湾が頭に浮かぶ。ところがどうして、松島湾の方々には申し訳ないが、牡鹿半島の海の美しさと、そこで採れるプリプリの牡蠣を見てしまうと、あのよどんだ松島湾の牡蠣なんて食べる気にならない。それほど気持ちよく立派な牡蠣が採れる。感動的だ。
 いつもは、作業をしていない時間帯を選んで行くのだが、私自身の都合もあって、午前の作業中に訪ねることになった。おかげで、浜での牡蠣剥きの様子をじっくり見ることができたし(初めてかも?)、どんな牡蠣が送られるのかを自分の目で確かめることも出来たので、これはこれでよかった。多少の迷惑はかけたかも知れないけれど・・・。
 注文した時から、「今年は身入りが悪くてダメだ」とさんざん言われたので、受け取り先の人たちにも覚悟しておいてもらわなければ、と思っていた。
 「牡蠣を養殖する」とは言っても、椎茸のような植え付けをするわけではないし、餌を与えるわけでもない。ごく簡単に言えば、海中にホタテの貝殻を吊しておけば、海中を漂っていた牡蠣の幼生が勝手に付着し、成長して牡蠣になる。牡蠣は自然の力で育つのである。
 こう書いてしまえば、牡蠣漁師なんて濡れ手に粟、なんともぼろい商売のように見える。しかし、あれこれ話を聞くと決してそうはいかない。そのことについては、過去に一度書いたこともあるのだが(→こちら)、先週末に見た剥き場の様子からは、また別な苦労が見えた。
 作業小屋で見ていると、剥きながら1級品、2級品、廃棄の3種類分けている(実際には「1級品」「2級品」という言葉は使っておらず、「いい方」「よくない方」という表現をしていた)。数で言って2級品が1級品の倍、廃棄は2級品の更に倍という感じだった。つまり、10個の牡蠣を剥けば、1級品として出荷できるのは1個か2個なのだ。そんな選別をしているおかげで、今年は実入りが悪いと言いながら、1級品として送られるものは、例年と比べて遜色がなく、むしろかえって立派なほどだ。ただ、その確率が低い、ということである。
 私は、かつて水産高校に勤務していた時、栽培実習場で牡蠣剥きはずいぶん熱心に練習した。練習と言っては語弊がある。実際には、せっせと牡蠣剥きをして、その牡蠣を持って帰りたいというだけの卑しい根性だったのだが、それでも、たくさん牡蠣剥きをしたことには変わりがない。それで腕にはちょっと自信があって、やがて不祥事でも起こして免職になった日には(笑)、牡蠣剥きにでも雇ってもらおうかな、などと妄想していたのである。
 プロの方々の作業を見ていて、確かに、私でもなんとかやって行けそうな気はしたが、それは牡蠣剥きについてだけの話。取り出した身を選別するのは別の話である。浜の小屋では40人ほどの人が牡蠣剥きに従事していたが、聞けば、間違いなく基準は統一されていて、選別の個人差はないとのことだった。私はそれにひどく感心した。
 天気がよかったこともあり、2年ぶりで訪ねた牡鹿半島の海は本当に美しかった。ただ、以前には建造中だった防潮堤の多くが完成し、車の中から海が見える場所は減った。陸と美しい海とを隔てるコンクリートの巨大な防潮堤は醜悪であり、目障りだった。異様でさえある。豊かな海の恵み・牡蠣には感動したが、浜の姿は哀しかった。

 

あ、気がつけば大晦日。よい新年を!!