ノロウィルスの驚異

 ようやく冬休みに入った。仕事はあるのだが、やらないことにして、娘を連れて京都に社会科見学に行くことにした。例によって名古屋まで船。帰りも名古屋から船。世間一般から見れば、気違い沙汰、もしくは「飛行機なら、大阪経由でも4時間あれば行けるのにもったいない」といったところだろう。だけど、船の中の時間こそがとても貴重。というわけで、明日からまた少し更新が滞るだろう(何しろスマホガラケーも持っておらず、パソコンを持ち歩く趣味もないので・・・)。


 ところで、いつもこの時期、お歳暮もどきとして、あちらこちらに牡鹿半島の牡蠣を送る。先方に届いた実物を見たことがないので、あまり確かなことは言えないが、私が業者から見本としていただくものを見る(食べる)限りでは超一級品である。牡鹿半島の美しい海で、牡蠣は本当によく育つ。いささか失礼な言い方をすれば、業者は牡蠣を海中につるしておくだけで、何をするわけでもない。牡蠣は海水に含まれる養分で、まるまると肥え太るのだから、その美味さはは正に「海の幸」そのものだ。
 何しろデリケートな生ものなので、相手の都合が悪くて受け取れないのも困る。私は2週間ほど前から、送り先の都合を聞き、受け取れることを確認して、昵懇の業者に発送を依頼してあった。牡蠣はクリスマス頃を境に、値段が倍くらいに跳ね上がる。その直前を狙って送ってもらうのである。
 ところが、一昨日のこと、新聞で、宮城県内各地の牡蠣からノロウィルスが検出されたので、出荷停止の措置を取ることにした、という記事を見付けた。間もなく、業者からも連絡があり、そのような事情で発送が出来ない旨を聞かされた。楽しみにしていてくれた人たちには申し訳ないな、とも思ったが、どちらかというと、業者が気の毒だと思った。何しろ、1年間で最も牡蠣の値段が高くなる時期に出荷が出来ないのである。私が頼んだ業者も、損失は数百万円になるかも知れないと頭を抱えていた。しかし、損失額が分かるわけはない。なぜなら、出荷停止がいつまで続くか見当が付かないからだ。
 例年、年が明け、2月頃になるとほぼ間違いなく、貝毒検出のニュースを耳にする。そういうものなのだ。つまり、時期が遅くなるほど、貝毒が検出される可能性が高いわけだから、今後、本当にそれが検出されなくなるかどうかなど分からない、むしろその可能性は高くないということである。私は素人で、よく分からないのだが、貝毒を除去する方法というのはない。成長と同じく、自然の力にゆだねるしかないのだ。
 そうしたところ、昨日になって、今回の貝毒はちまたで流行している人間の胃腸炎が関係しているらしいという情報が出回り始めた。河北新報の記事によれば、胃腸炎にかかった人の嘔吐物が海に流出し、それが牡蠣に蓄積されたのだ、という。宮城県水産業基盤整備課の見解だというので、信憑性は高いであろう。私は驚く。ノロウィルスに感染した人がどれだけいるかと言えば、私の勤める学校で感染性胃腸炎にかかった人の割合から推測するに、せいぜい数%だろう。その人たちが下痢をしたか嘔吐をしたか知らないが、それが下水処理施設でウィルスが死なず、海に流れ出たとして、一体どれくらいの量だというのだろう。人間の体からでたものの量なんて、海の水の膨大さから比べれば、ゼロに等しいはずである。それでいて、看過出来ないほどの汚染を引き起こすというのは、ノロウィルスがいかに強力か、ということである。
 自然というのは人間の想定を常に超えるものなのだ。いや、それは「人間」ではなく、愚かな「私」だけの問題なのだろうか?ともかく、あのぷりぷりと盛り上がった立派な牡蠣を、安心して食べられる日が早く来ますように・・・。