ホロコースト

 娘が共通テストを受けに行った週末の2日間、まるで春のような気温であった。温かいとまでは言えないが、寒さに耐えられないということはなく、我が家は昨日以来ストーブを付けていない。ここは東北、石巻である。温かくていいなぁ、ではない。無気味だ。そういえば、元日にはスキー王国リヒテンシュタインで20℃、北緯約55度のベラルーシでも16.4℃など、多くの場所で平年を15℃以上上回り、ヨーロッパ全体の数千箇所で、1月の高温記録が更新されたらしい。私はネットで知ったのだが、なぜかテレビや一般紙では情報を見付けられなかった。異常な高温もマスコミの無頓着も、恐ろしい話である。
 恐ろしいと言えば、鳥インフルエンザによって殺処分された鶏の数が1000万羽を超えたという報道が為されている。あまりにも凄惨な話で驚く。ナチスが第2次世界大戦中に引き起こしたホロコーストによる死者が600万人と言われていることと比べると、そのすさまじさがよく分かる。しかも、ホロコーストが約5年をかけて行われた結果であるのに対して、鳥インフルエンザによる殺処分は、わずか半年にも満たない期間(実質的には、ほとんどこの1ヶ月)の数字である。
 鳥インフルエンザウイルスというのがどれほど危険なのか、調べてみても、今ひとつよく分からない。少なくとも、人間にとっての脅威は「ない」と言ってよいレベルらしい。それでいてこの処分である。例えば、コロナの患者が学校から一人出たら、その学校に在籍している者すべてを処刑、というようなものではないか。何とかならないものか、と思う。
 鶏が感染すれば、10日以内に75%が死ぬという。その致死率はコロナの比ではない。ウイルスは渡り鳥が運んできたと考えられている。渡り鳥は何日も、あるいは何週間もかけて渡ってくるのに、なぜバタバタと死なずに、日本にたどり着くのか?なぜ養鶏舎の鶏の方が容易に死ぬのか?それは鳥の種類の問題と言うよりも、常にストレスに耐えながら生き延びてきているかどうかという問題があるのではないか?経済目的のためだけに、利用されるまでは生きることに不安のない環境で育てられた鶏は弱い、ということであろう。また、渡り鳥は、感染したとしても群全体を殺処分というわけには行かないから、感染が広がる中で、強い鳥が生き残り、強い鳥の子は更に強いという循環が生まれる。鶏舎の鶏を、1羽が感染したからという殺処分していたら、鶏には耐性も生まれてこず、永久に発生→殺処分を繰り返すことになる。75%が死んだとしても、25%は生き残るのである。25%の子が産んだ子は、感染しても致死率が下がるのではないか?
 死んだ鳥を処分することに異論はない。だが、食べてもいいのではないか?ワクチンは存在するらしい。だが、使用はされていない。1個20円の卵、100グラム100円の肉のために、いちいちワクチンを打ってはいられない、ということなのか?
 憶測混じりでものを言って申し訳ないが、例によって人間は自然に反し、ずいぶんひどいことをしているような気がする。毎日のように10万、100万単位の殺処分の話を聞いて胸が痛む。