恐るべき帯状疱疹(?)

 5月3日の昼下がり、左の首筋に筋が違った時のような痛みを感じた。強いものではない。しかし、変な姿勢を取ったわけでもなく、机に向かって静かに新聞を読んでいただけなのに、筋違いなんか起きるものだろうか?と、少しいぶかしく思った。
 1~2日で治るだろうと思っていたら、これが以外にしつこい。そのうち、左耳の裏が腫れているとはっきり分かるほどになってきた。更に1~2日で、リンパ節と思われるあたりがぷくっと膨れてきた。熱は出てこないのだが、腫れている部分が熱を持っているようで気になる。そのうち、今度は頭の左半分の表面が、少ししびれたような感じになってきた。
 頭皮のしびれが痛みに近いものに変わってきて、発疹も現れ、いよいよ変だぞ、と思って医者に行ったのは先週の土曜日、13日のことである。行きつけの医院が、いつもは11:30まで受付しているものを、この日に限って混雑と検査予約を理由に10時で受付をストップしてしまっていた。しかし、加速度的に悪化しているような気がするし、翌日が日曜日なので、どうしてもこの日の内に一度診察を受けておいた方がいいと思い、急遽、勤務先の近くのM医院に行った。
 院長ではなく、私と同じくらいの年齢の非常勤医だった。症状を説明すると、簡易な血液検査と胸部X線撮影だという。肺炎の疑いがあるのだとのことだった。私は少し怪しいものを感じた。肺炎で耳の後ろが腫れたり、頭皮が痛んだりし、それでいて熱も出ない、ということがあるだろうか?
 血液検査の結果、白血球は増えていないが、CRPが0.53(正常値0.3以下)で、何かに感染しているのは確かだという。肺には何の影も見られない。診断が着かないので、耳鼻科に行ってみてはどうか?と言う。申し訳ないが、アホではなかろうか、と思った。リンパ節の腫れを見れば、血液検査の結果を見るまでもなく感染は明らかだし、耳の病気で発疹が出たり、頭皮に痛みを感じたりするとは思えない。素人判断はダメですよ、とは言っても、素人の直感にもまた尊重すべきものはあるのだ。耳鼻科はあり得ない。私は耳鼻科への紹介状も、鎮痛剤や胃薬の処方も断ってM医院を出た。
 翌日、症状は更に悪化した。頭皮の痛みがしびれのようなものからチリチリに変わり、やがて耳たぶにも同様の痛みを感じるようになった。発疹は数を増し、それに触るとかなり強い痛みを感じた。月曜日になると、チリチリはチカチカ、ビリビリに変わり、触ると強い電気を流したような痛みが走る。痛みとして決して強いとは言えないのだが、猛烈に不愉快な耐えがたい性質の痛みである。
 月曜日、この日は石巻支部総体の2日目で授業がなく、美術部の生徒が2時間活動するのに立ち会えばいいことになっていた。終わるのは11時。もうこの頃になると本当に耐えがたく、これがあと数時間も続けば気が狂うのではないか、と思うほどになっていた。

 11時になるのを待ちきれず、私は10:55に生徒を解散とし、学校からさほど遠くない内科と皮膚科2人の医師がいる医院に駆け込んだ。玄関にたどり着くと、皮膚科は医師の都合で、午前中は10:30で終了とする旨紙が貼ってある。あぁ、なんてついていないんだ!と一瞬天を仰いだが、受付で事情を話すと、対応しますと言って、看護師が丁寧な問診をしてくれた。とても人間的というか、誠実な優しさを感じた。その後、15分くらい待つと、診察室に呼ばれ、都合が悪いはずの皮膚科医が診てくれた。ほとんど瞬時に診断がつき、おそらく帯状疱疹だろうと言う。ただ、細菌感染もしているかもしれないので、抗生物質の投与もしようと言って、即点滴となった。痛み止めも入れてくれた。
 点滴が始まると、私はすぐに眠ってしまい、看護師に起こされて目を覚ました。40分くらいしか経っていないのに、少し楽になった気がする。
 薬局で経口薬を3種類と、塗り薬を1種類買った。驚いたことに、この日の診察費(初診料含む)は6360円、薬代は6300円、合計で16060円にもなった。日頃、居酒屋1軒分以上のお金を持ち歩かない私が、この時に限ってなぜそれほどのお金を持ち合わせていたのか、不思議である。
 薬剤師が、私が驚くことを見越してか、尋ねもしないのに、金額を示す前に説明してくれた。「この抗ウイルス薬がとても高いんです。この薬以外だと、まとめて数百円というレベルなんですけど・・・」。私は「効かない薬なら数百円でも高いですけど、本当に効く薬なら仕方ないんじゃないですか」と答えた。それでも、いざ6300円と言われるとびっくり。もらった説明書を見ると、商品名アメナリーフ(一般名アメナメビル)という黄色い錠剤が、1錠で1215円(原価)もする。1日2錠なので、1日あたり約2500円だ(負担額はこの3割)。これはすごい。私がC型肝炎の治療に励んでいた時に服用し、その高価なることに驚いていたリバビリン(商品名レベトール)でも、1錠800円に過ぎない。それを超えるのである。
 しかし、薬剤師との会話は暗示的だった。実によく効いたのである。この6300円より、M内科で払った2600円の方がはるかに高いと私は感じた。支部総体の代休日であった翌火曜日も含めて、1日半眠り暮らしたことの効果もあったのだろうが、皮膚科で診察を受けてから30時間くらいで、痛みもほぼなくなり、首やリンパ節の腫れも引き、発疹はかさぶた化が進み、水曜日には普通に勤務することができるまでになった。昨日の木曜日は、以前から予定していた宴会にも出席した(お酒は飲まなかったけど・・・)。
 その場にいた他校の養護教諭が、「頭の帯状疱疹はけっこう危険で、入院することもあるのよ、ずいぶん早く良くなったわね」と驚いていたし、以前から、帯状疱疹はしつこい病気だとも聞いていたので、確かに、私の場合は驚くほど早く寛解したことになる。
 もっとも、まだ完治したわけではない。とりあえず、今の薬を飲みきり、来週の月曜日に再び通院し、そのまま治癒ということになるのかどうか・・・。今はそんな状態。
 ところで、帯状疱疹を引き起こすヘルペスウイルスは、多くの大人が日常的に感染状態にあるものらしい。それが、過労やストレスなど、何かのきっかけで悪さをするようになる。確かに、私は久しぶりの担任業務で、ドタバタと忙しい1ヶ月を過ごしてきた。しかし、決して異常と言うほどのものではなかったし、この程度のことでヘルペスウイルスがいちいち目を覚ますようでは困る。ストレスも同様だ。したがって、なぜこのタイミングで発症したのかはよく分からない。だが、以前なら過労でもなんでもなかったものが、60歳という年齢には負担だったということはあり得ることだ。すると、今回の帯状疱疹の原因というかきっかけは老化だということになる。そう考えることは少し寂しい。真実やいかに?