立山を経て五色ヶ原へ

 今回は、山行の全貌を予め示さず、日を追って書いてみる。なお、休憩箇所については要所のみ書いてある。書いてある場所以外で一切休んでいない、ということではないので、そのつもりで。


7月24日(月)

 富山駅に6:35に到着予定だったバスは、6:10に着いた。降車場のすぐ後ろに室堂行きのバスが止まっている。「室堂(むろどう)」とは、私が今回起点とする場所である。弥陀ヶ原(みだがはら)という台地の上端で、日本を代表する観光地「立山黒部アルペンルート」の上にある大ターミナル(乗り換えポイントでホテル併設)なので、たいていの人は知っているに違いない。標高は2433m。
 そのバスに乗ると、2時間半後には室堂に着く。しかも、電車、ケーブルカー、バスを乗り継いで行くより2000円以上安い。しかし、私はそのバスには乗らない。6:40発の室堂行きバスは、仙台からのバスが少しでも遅れると乗れないから予定に入れなかったというだけではない。予定の変更なんて簡単なことだ。だが、早く着いたからと言って、その日のうちに行程を先へ進めることができるわけでもない。だとすれば、一応「乗り鉄」の端くれである私にとって、富山地方鉄道地鉄立山線に乗る貴重なチャンスを失うわけにはいかなかったのだ。
 地鉄立山線には、原田泰治が描いた榎町(えのきまち)や、映画『剣岳、点の記』(木村大作監督、2009年)で富山駅シーンのロケ地となった岩峅寺(いわくらじ)といった駅もある。立山駅(475m)から美女平(977m)へのケーブルカーにも乗ってみたかった。

富山駅7:12→(富山地鉄)→8:07立山8:50→(ケーブルカー)→8:57美女平9:05→(バス)→9:55室堂・・・11時頃雷鳥沢CS(2277m、CSはキャンプサイト=野営場)・・・散策(室堂ターミナルまで道を変えて)・・・雷鳥沢CS

 快晴である。大日岳、立山といった室堂を取り囲む山々だけではなく、剣岳、そして私が2日後に行くことにしている薬師岳まで、とてもよく見える。薬師岳が驚くほど近い。剣岳を近くで見たのは初めてだが、写真で見た通り、岩だけでできた鎧のようで硬質な形状は、異様な存在感だ。みくりが池の水の色の深い青も印象的だった。
 サンダルでも行ける室堂は、中国人団体観光客も多く、ごった返していたが、それはせいぜい「みくりが池」あたりまでで、そこを越えると人はさほど多くない。雷鳥沢に張られたテントの数は100くらい。大きな野営場なので、まだまだ余裕がある、といった感じだった。
 午後、ガスが出てきて頂上も見えなくなっていた立山が、6時頃から再び姿を現した。夜はあまりにも冷え込みが厳しいので、ちょっとテントから出て見ると、驚くような星空だった。天の川は言うに及ばず、星の有無で稜線の場所がよく分かる。
 

7月25日(火)

雷鳥沢CS4:37・・・6:10大走り分岐(稜線)6:20・・・7:10大汝山(=立山最高地点、3015m)7:25・・・7:40雄山(2992m)8:00・・・8:30一ノ越(2706m)8:35・・・9:10浄土山南峰(2834m)9:20・・・10:20鬼岳東面(昼食)10:50・・・11:10獅子岳(2714m)・・・12:05ザラ峠(2348m)12:15・・・12:55五色ヶ原山荘(2500m、CS利用申請)13:00・・・13:15五色ヶ原CS(2410m)

 これまた予想通りの快晴。放射冷却による冷え込みが厳しかったのと、最初の急登が西斜面で、朝日に照らされなかったため、稜線に出るまではよかったが、稜線に出て直射日光を浴びるようになってからは暑かった。
 今回の山行全体の最高地点=大汝山(おおなんじやま)からは、剣、薬師はもとより、槍・穂高に至るまでくっきりと見えた。条件が完璧に整えば見えるらしい富士山が見えなかったのだけが、少し残念と言えば残念だった。それでも、我が生涯8座目の3000m峰の頂上は嬉しかったし、そこからのぞき込むと見えた緑色の黒部湖とダムの一部には感動した。
 雄山には2991.8mの一等三角点と雄山神社社務所がある。一段高いところに雄山神社があって、そこは3003mなのだが、そこを参拝するには料金が必要だ。驚きの700円!既に大汝山に登ったことでもあるので、私は行かなかった。
 京都で言えば金閣寺。おびただしい数の登山者が来ていたが、ほとんど(95%以上)は私とは逆の方向、つまり室堂から一ノ越経由でやって来る。しかも、登りと下りで登山道が分けてあるので、すれ違いが煩わしいということもなかった。
 事前に地図はよく確認したつもりだったが、ここからが私の誤算だった。私の意識において、この日の消費エネルギーは8割が一ノ越までで消費される、その後は2割、のんびり楽しい山歩き、であった。ところが、暑さと一ノ越から先のアップダウンが意外に激しく、浄土山南峰からさほど遠いとも思えない場所に見えた五色ヶ原山荘は、なかなか近づいてこなかった。前日、弥陀ヶ原を走るバスから見て、意外に近いものだなと思った薬師岳は、なぜかずっと奥に引っ込んでしまった。
 獅子岳の頂上付近から真下にザラ峠を見た時も驚いたが、五色ヶ原から振り返って獅子岳を見ると更に驚く。ザラ峠に面した斜面が垂直に近い絶壁に見えるのだ。どうしてそんな所に登山道を付けられたのか、理解に苦しむほどだ。
 着いた五色ヶ原は、確かに「原」だが、「五色」と言うほど彩り豊かな場所ではない。CSに張られたテントは14張り。もはや室堂・立山の喧噪は一切ない。それは嬉しい「予想通り」だった。(続く)