高天原は桃源郷!

 この日の移動は本当に楽勝。そしてこの日も快晴。そこで、すっかり濡れたテントを乾かしてから出発することにした。

7月28日(金)

雲の平CS8:12・・・(散歩)・・・雲の平山荘脇の分岐8:40・・・9:00無人雨量計(2576m)・・・10:15高天原峠・・・11:00高天原山荘(2128m)・・・高天原温泉・竜晶池・・・高天原山

 最近、北アルプスでは完全予約制の山小屋が主流になっていて、高天原山荘も同様である。高天原にはCSがないので、この日は今回の山行中唯一、テント泊ではなく、山小屋に泊まることにしていた。
 出発の10日あまり前に予約サイトを見てみると、高天原山荘以外、周辺の山小屋は全て満員になっている。高天原はさすがに行きにくいのだろう、「残り26人」と表示されていた。その時、私はまだ日程を決めきれずにいたのだが、高天原山荘が満員で泊まれなくなってしまうと、CSがないだけに、計画の大幅な変更が必要となる。それはそれで難しいことなので、私はとりあえず「28日」で予約をした。
 その際、「無理をしたくないので、場合によってはその日に行けなくなり、連絡もできない場合があるかも知れません」と書き込んだ。「携帯電話を持っていないので」と書けば、連絡できないかも知れないことについて説得力が増すように思ったが、安全確保の観点から非難されそうな気がして書かなかった。山荘からは「無理をする必要はありませんが、キャンセルポリシーに従い、その場合は2日前までに連絡を下さい」という返信があった。北アルプス最奥の山小屋から「キャンセルポリシー」などという言葉が届いたことにも驚いたが、それよりも、山の中で予定変更の連絡ができない人間=携帯電話を持たない人間は山に入る資格なんかない、と言われているようで悲しかった。(参考→山小屋を予約制にすることの問題について
 ところが、着いた高天原山荘は最高の山小屋だった。「ランプの宿」などと宣伝はしていても、今どき北アルプスに冷蔵庫のない山小屋なんかないだろう、「ランプ」はあくまでも他の小屋との差別化を図るための営業用小道具であるに違いない、と思っていたが、発電機の音が一切聞こえないので尋ねてみると、本当に発電機はないのだそうだ。当然、冷蔵庫は存在しない。1階の下に半地下部分があって、そこが多少ひんやりとしているので、食料はそこで保存している。言い方を変えれば、そこで保存できる食料しか蓄えておくことはできない。帳場と台所で若干の電気を使っているが、それは2枚の太陽光パネルで作った電気を小さな3つの蓄電池にためた分でまかなっているらしい。見てみると、屋根に乗っている太陽光パネルは本当にささやかなものだ。宿の方も出力は知らないそうだが、我が家の太陽光パネルの大きさと比べてみるに、せいぜい1kWくらいなのではなかろうか?
 建物もこざっぱりときれい。トイレの美しさは、今回の山行中で随一。しかも、1人あたりのスペースが2畳分もある。これは山小屋としては破格である。本来1畳に一人で、寝具もそのように配置されているのだが、実際には1畳おきにしか人が入らない。たまたま半分の予約しか入らなかったということなのか、快適さに対する配慮でそのようにしているのかは聞かなかった。あるサイトによれば、コロナが流行し始めてから、密を避けるために1人おきのスペースにした上で、隣との間にビニールカーテンを付けたらしい。私が訪ねた時、ビニールカーテンはなかったが、もしかすると、コロナ時代の名残で、今でも定員を半分に絞っているのかも知れない。
 一方、期待に反したのは温泉である。なにしろ、山道を15分下らないと温泉に着かない。温泉で汗を流しても、小屋への帰りが上りになるということだ。温泉沢という沢の左岸に混浴風呂、右岸に男女別の風呂があるのだが、男風呂はあまりにも熱くて入れなかった。混浴の方は、それに比べるとましで、多少熱めながらも入ろうと思えば入れる湯温だったが、あまりにもオープンな場所で、すぐそばを多くの人が通るものだから、恥ずかしいと言うよりは、なんだか申し訳ない気がして入れなかった。私は結局、温泉沢で首から上を洗い、水遊びをしただけだった。同宿者に聞けば、行く時間によって湯温はかなり大きく変化するらしく、人によっては別浴の方も快適だったと言う。私は運が悪かった、ということである。すぐ隣に沢があるのだから、そこからホースを一本引いておいてくれれば解決するものを・・・。沢での水遊びも爽快だったが、それでもやはり残念!!
 なんだか雲行きが怪しいなと思い、13時半頃山荘に戻ったら、すぐに雨が降り始めた。前日雲の平で降られたほど激しくはなかったが、この日は2時間あまり続いた。雷も鳴った。テントの中で耐えている時と違い、小屋の内から眺める雨は風情があった。(続く)