トリプティーク

 9月3日に録画していたEテレ「クラシック音楽館」を見た。6月10日に行われたN響第1966回定期演奏会(指揮:ジャナンドレア・ノセダ)の映像である。プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番(独奏:ベフゾド・アブドゥライモフ)のサーカスとしか言いようがない超絶技巧曲の演奏が文句なしに面白かったのだが、それとはまた別の意味で、番組の最後の20分で放映されたオマケ、「N響メンバー×高校生 スペシャルクリニック」がまた面白かった。N響のメンバーが母校を訪ねて、後輩を指導するという企画だ。
 今回登場したのは、第1バイオリンの村尾隆人氏25歳。母校は成田高校。学生オーケストラの弦楽パートを指導する。
 練習していたのは、芥川也寸志の「弦楽のための三章」(普通は「トリプティーク」と言いますね)。一聴して、ずいぶん魅力的な曲だな、と思った。とても有名な曲なので、決して知らなかった曲ではないのだが、「え、この曲こんな曲だっけか?」と軽い当惑を感じたほどに新鮮だった。高校生の純真、ひたむきな表情もよい。
 我が家にある録音は1種類だけ。森正指揮東京交響楽団による1961年の録音である。あわてて久しぶりに聴いてみると、やはり、成田高校の学生オーケストラの方がはるかに(本当に、はるかに)魅力的だ。理由は簡単。プロ・オーケストラである東響の演奏は美しすぎるのだ。
 「トリプティーク」はとても土臭い曲である。スラブ系の音楽でも聴いているようだ。実際の指導がどれくらいの時間行われたかは知らないが、番組で学生が繰り返し弾いているのは、「トリプティーク」第1楽章冒頭の30秒くらいだけである。この部分はまた特別に土臭い。それが、音がきしみ、アンサンブルが微妙に乱れる学生オーケストラの演奏と実に上手く合うのだ。逆に言えば、東響の高めのピッチによる美しすぎるアンサンブルからは、土の匂いが感じられない。
 成田高校オーケストラの演奏で、「トリプティーク」を最後まで聴いてみたいと思った。全3楽章で15分もかからない曲なので、クラシック音楽館のオマケで放映してくれないかなぁ。