日曜日に録画していたNHK交響楽団第2019回定期演奏会の録画を、ようやく見ることが出来た。御年97歳のブロムシュテッドがまさかの登場である。昨年転倒によるケガだか発熱だかで来日をキャンセルした時、まさかもう一度来日が実現するとは思わなかった。
「クラッシック・ジャーニーのブログ」10月5日と26日の記事によれば、2人の介添人が同行していた上、カヴァー指揮者(ブロムシュテッドが指揮できなかった時の代役)が会場に待機、しかも、介添人はともかく、その指揮者(ゲルゲイ・マダラシュ)はプログラムにも記載されていたらしい。プログラムは、そのブログにも貼り付けられていて、実物を見ることが出来るから間違いのない話なのだろう。実に珍しい、おそらくは前代未聞の扱いだ。N響は「不測の事態」が不測ではないことを予め覚悟の上で、賭けに出たということなのだろう。チケットを買った聴衆の側にも同様の覚悟があったに違いない。
興味津々、録画して見ようとしてみたものの、さほど期待はしていなかった。たしかに、97歳にもなった指揮者というのは神がかって見えるものかもしれないが、いくら楽員の尊敬を集め、その結果として楽員が必死に演奏しようとしても、90歳の時のスクロバチェフスキー(読響、ブルックナー第8番)や92歳の時の朝比奈隆(同じくブル8=これはテレビではなく、実際サントリーホールで聴いた)など、お世辞にも立派な演奏ではなかった。やはり老いによる衰えは、どうしても出てしまうものなのだ。衰えよりも深化の方が大きいとは限らない。
さて、今回はシベリウス「トゥオネラの白鳥」、ニルセンのクラリネット協奏曲(独奏:伊藤圭)、ベルワルドの交響曲第4番というオール北欧プログラムだった。
ブロムシュテッドは終始椅子に座って指揮をする。確かに老いは進んだ。目のくぼみ方がそれをよく表している。しかし、一昨年マーラーの第9番を指揮する姿で衝撃を受けたような生気のなさはまったくない。動作はどうしても小さいが、それでも、曲を細部まで把握し、細々と表情付けを行っているのがよく分かった。初めて聴いたニルセンのクラリネット協奏曲は、曲の価値そのものがよく分からなかったが、同様に初めて聴いたベルワルドはとてもよかった。
19世紀半ば、ベルワルド40台後半の曲らしいが、一昨年ブロムシュテッドが振ったシューベルト(特に第6番)を彷彿とさせるような、温かく若々しい作品であり演奏である。ブロムシュテッドは、譜面台に楽譜を置きながら、それを一切めくることなく、豊かな表情で楽員に目配りしながら、愛おしむように音楽を紡ぎ出す。木管楽器の響かせ方、丁寧な弱音の扱いは本当の一級品だ。以前同様の指揮の明瞭さもあって、97歳の老大家が演奏しているようにはまるで聞こえない。私はすっかり感心してしまった。
10月の定期演奏会あと2回分、明日と来週日曜日に放送があるらしい。「高齢の割には」ではない、真に素晴らしい演奏を楽しみにしたい。