進化と堕落・・・便利な山道具



 例によって、週末、山岳部の諸君と山へ行っていた。生憎、夕食を終えた頃から雨が降り始め、雷の音さえ聞こえてくるようになった。やがて土砂降り。山の中でこれほど激しい雨に降られたのは、本当に久しぶりのような気がする。

 私と同じテントにいたのは、3年生と、それから私よりも三つ年上のコーチ(OB)の3人だった。私とコーチでこんな話になった。

 「いやあ、ひどい雨ですね」「本当に。だけど、雨漏りもしないし浸水もしないから、悲惨と言うほどではないですね」「そういえば昔のテントはひどかった。こんなに降ると、テントの中に川が流れましたよ」「テントだけじゃなくて、例えばこのコンロなんか、重さ、昔のやつの何分の一ですか?」(この後しばらく、2〜30年前の道具談義が続く)「そう思うと、私達が生まれる前に、人がエベレストの頂上に立ったというのはスゴイことですね」「いや、それどころではなくて、19世紀の末からヒマラヤに行った人たち全て、いや、南極探検なんかも含めて、みんな驚異ですよ」「昔の人って強かったんでしょうねえ・・・精神的にも肉体的にも・・・」

 道具が便利になり、軽くなるに従って、私達は工夫することをしなくなり、体を鍛えることを疎かにするようになってしまう。よく私が言うように、「あらゆる便利な物、快適な物は人間をダメにする」のだ。

 朝目が覚めたら、雲の間から青空が見え、日が差していた。ブナの新緑が実に美しい。山で雨に降られるのは嫌なものだが、雨に降られなければ、雨上がりの美しさは見ることが出来ない。眼下に雲海、近くに新緑のブナ、そして遠くに残雪の山々を眺めながら、一同ご機嫌で下山した。私の腰に付けたビニール袋には、吉備団子ではないが、コシアブラもたくさん入っていたし・・・。