芭蕉は光圀公のスパイ



 日曜日、茨城県へ行った。今月末日を以て日立電鉄という弱小ローカル私鉄が廃止になるというので、恥ずかしながら「鉄道ファン」の末席にいる私としては、この際、そのうち廃止になりそうな(ごめんなさい)他の二社(茨城交通鹿島鉄道。なお、後者については、別な事情から2月21日付のこのプリントで取り上げた)も含めて、1日で見物、乗車してこようと、家族にいろいろな言い訳をしながら、一人でノコノコ出かけた次第である。

 それはともかく、途中乗り換えの都合、水戸で多少の時間があったので、駅からほど近い「弘道館」(水戸藩の藩校。徳川家の最後の将軍・慶喜が学んだ場所として有名)を駆け足で見物した。そこで、あるボランティアガイドと思しき人が、関西から来たらしい老夫婦に説明しているのを横で立ち聞きしていてびっくり仰天!!曰く「松尾芭蕉は、実は光圀公(いわゆる黄門様)のスパイだったのです。彼は漂白の旅人を装って各地を旅し、情報を暗号の形で俳句に託し、光圀公に届けていました。・・・」

 私は聞いた瞬間、何をバカなことを!と思ったが、なぜ自分がそう思ったかということを冷静に考えてみると、しっかりした否定の根拠がある訳ではない。直感的に、若しくは何となく、ウソに決まっている、と思ったに過ぎないことに気が付いた。これはまずい。「地球は丸い」という説を初めて聞いた当時の人々の反応と全く同じである。少なくとも、そのガイドらしき人に、彼の説明の根拠を尋ねてみるべきだった。人の言うことを鵜呑みにしないと同時に、自分が正しいと思うことの根拠も絶えず問い直す、そういう頭の使い方をしなければ成長は望めない、と自戒した。