物は残せばキリがない



 東京の中央郵便局の建物を保存すべきかどうかでもめている。改築計画が進んでいたところ、某大臣が、文化財として保存すべきだと「待った」をかけたところからごたごたし始めたものだ。

 古いものを壊す時には、同様の議論がよく起こる。多くはもっともらしい議論に聞こえ、なまじ「保存の必要がない」などと言おうものなら、血も涙もない、若しくは「文化」についての意識の低い、低俗な意見のように見られたりするが、一個人の持ち物レベルで考えてみるとよい。何かしらの価値を認めて、使えなくなった物をいちいち取っておこうとしたら、大変なことになってしまうのは自明である。本当に保存する価値のある物かどうか、どのような形で保存するのがよいのかについては、よほど慎重な見極めが必要だと思う。

 映画『男はつらいよ』第18作に、車寅次郎の次のような言葉がある。人間の死について語った言葉だが、理屈は同じである。自分の命も含めて、ある時期で「未練」や「ノスタルジー」を超えた潔さは必要だと思う。世の中はそうして続いてゆき、それは、消えた物に支えられての継続であって、消えた物も消えることで価値を失ったりはしない。

 「人間が、いつまでも生きていると、陸の上がね、人間ばかりになっちゃう・・・。うじゃうじゃ、うじゃうじゃ、メンセキが決まっているから、みんなでもって、こうやって満員になって押しくらマンジュウしているうちに、足の置く場がなくなっちゃって、隅っこに居るやつが、アアッなんて海の中へパチャンと落っこって、アップアップして、「助けてくれ!助けてくれ!」なんてね、死んじゃう。結局そういうことになるんじゃないですか、昔から。」(井上ひさし監修『寅さん大全』筑摩書房より)