離任式ではありがとう



 昨日の離任式では、多くの諸君からプレゼントやら激励やらをもらいました。本当にありがとう。

ステージ上で話をしていたのでは時間的にも大変だし、他の先生方への遠慮もあって、代表の諸君と多少の言葉を交わしたに過ぎませんが、それは、式の後で少しはゆっくり話が出来ると思っていたからでもあります。

 実際、多くの諸君が生徒指導部室に来てはくれましたが、特に来年の身の振り方の確認も含めて、いろいろと話がしたかった3年2組のほとんどの諸君など、会う機会が作れませんでした。ステージ上からでは、一体誰が来てくれていたのかも分かりませんでした。

 そこで、大変申し訳ないのですが、この場を借りてお礼の気持ちを伝えようと思います。本当にありがとう。

 今日、生徒指導部室からも完全に撤収し、もう教員として一高に行く機会はありません。寂しいことですが、必ずいつかはそういう時が来るのですから仕方ありません。

 一高を離れても、私は変らない私として存在します。3年2組では、卒業式の日にこのプリントでも確認した通り、私は、ただ思い出話にふけるだけの卒業生は歓迎しませんが、真剣に人生に悩み、熱心に学んでいる人は、元生徒としてではなく、友人として熱烈に歓迎します。ふと思い出すことなどあれば、連絡下さい。

 諸君の今後の実り多い人生を祝福します。

補)なんだか不本意なスピーチになってしまったが、昨日ステージ上で私が述べたことを若干端折りながら書いておく。

【離任式での話】

 私の言いたいことはS先生に言われてしまうだろうと思っていましたが、本当にそうなりました。重ならない点について、私の多少の感懐を述べたいと思います。

 今回の異動は、私自身の希望によるものです。異動のペースの速まっている現在、私も一高での生活が7年となって、そのタイミングを考えざるを得なくなっていました。そして、今年をそのタイミングと判断した理由には、受け持っていた3年生が卒業したことや、山岳部や応援団の諸君がしっかりしていて、後任に比較的に引き継ぎやすいと思ったことなど、いろいろあるのですが、その中の一つについて少し立ち入ってお話しをします。

 私の人生において、世界は広いということを強く実感した時期が三つあります。一回目は、大学時代、私が世界を旅行していた時です。大学を休学していた時を中心に、延べ1年半近く、恐らくは50カ国くらいを私はうろうろしていました。この時、正に文字通り、世界は広いと思いました。

 二回目は、南アメリカから帰国し、高校の教員となって、地方の、およそ一高とは正反対の、中学校で成績が下から何番まで、というような生徒が入ってくる高校で教員生活を始めた時でした。私は一高生と同じような環境で高校・大学と過ごし、その結果、成績、家庭の経済力、運動能力、芸術文化的素養等、あらゆる点で恵まれた人達とだけ関わり、それが社会だと思っていました。そして、この時、実は同じ日本の中に、あらゆる点でそれとは異なる人々がいることを知り、世界は広いと思いました。

 三回目は、子供が生まれてからです。

 さて、このうち、一つめと三つ目はともかく、二つ目について言えば、当時世界の広さに愕然としていたにもかかわらず、この16年間、石巻高校、仙台一高と、私の母校とよく似た学校で生活するうちに、再び、そのことを忘れるようになってきました。このような特殊な階層の中にいることは、確かに居心地のいいことであるには違いありません。しかし私は、最近、そのことにある種の疑念を持つようになっていました。果たして、それでいいのだろうか。世の中にはいろいろな、実にいろいろな人々がいることを常に実感し、その広い世界の中で、世の中で起こっている様々なことについて考えなければいけないのではないか。狭い世界に自分を閉じこめることは、自分たちにとってのみ都合のいい世の中を作ろうとして、人を虐げることになるのではないか。

 私が赴任する水産高校は、その名の通り、実業高校です。現在、どれほどの生徒が、将来的に水産業に従事するための能力を身に付けようとして入学するのかは知りませんが、おそらく一高とは全く違う世界が広がっているに違いありません。自分がその中で何を感じ、自分にとって世の中の見え方がどう変化するのか、今私は、そのことについてワクワクするような気持ちを抱いています。

 ところで、一高での7年間は本当に恵まれたものでした。多くの生徒諸君、保護者の方々、先生方の寛容と励ましに支えられて、日々を楽しく過ごすことが出来ましたし、山岳部の諸君と寝食を共にしたことが豊かな思い出であるのはもとより、一高ではない、他県の高校出身者でありながら、一高の精神である応援団の顧問を5年間にわたって務めさせてもらいました。私はそれを「栄誉」であると思っています。

 本当にありがとうございました。今後の益々の活躍を期待しています。