増税論議に思う



 参議院選挙である。これで世の中がどうなるのか分からないけど、私が一ついいなあと思っているのは、選挙前にはタブーと言われていた増税に関する議論が、公然と行われている事である。

 意外に思う人もいるかも知れないが、私は極めて過激な「増税派」で、しかも、その形態は「消費税」がベストだと思っている。脱税は出来ないし、源泉徴収のサラリーマンが抱きがちな不公平感もないし、景気の影響は小さいし、旅行者など収入を海外で得ている人からも徴税できる。何%がいいかは分からないが、他の先進諸国並みに少なくとも15%くらいにはして、問題になる逆進性については、各自の確定申告の際に、所得に応じて払い戻すなり、前年の所得に応じて一定額の免税券を発行するなり、商品の贅沢度の違いに応じて税率を変えるなり、いろいろと修正を加えて切り抜けるべきだろうと思う。某政党は、企業の内部留保を問題にしたりするが、昨今の浮沈異常に激しい世界情勢を考えると、内部留保なんていくらあっても安心できない、という事情は大いに理解できる。それが一部の人だけの利益になっているならともかく、そうでなければ、大企業に多くの人々の生活がかかっている以上、それを取り崩させるシステムを作るのは、社会全体にとってもリスクの大きな方法だ。

 というのも、私はカエルと借金が何よりも嫌いなので、今の日本が抱える天文学的額の借金を考え、その責任(つまり支払い義務ということ)の一端を自分が負っていると思っただけで、不安で不安で居ても立っても居られないのである。借金があるという事は、頭の上がらない相手がいるということであり、それは自由がないということだ。まして、借金を返すために借金をする、もう貸しませんよ、と言われた日には即破産、などという状況は本当に恐ろしいと思うし、国債を買っている人達が、期限の来た国債の払い戻しで次の国債を買い、利子の分だけ蓄積を増やす、そのような資産家に国民が全員で貢いでいるという状況は腹立たしい。だから、某政党が増税論議を国民に拒否されないために(だろう)、「社会保障の充実のための消費税率引き上げ」などと言うのは、借金のない国でこそ許される発言であって、とにかく耐え忍んで借金を返すべきだ、と思うのである。返済が終わった暁には、それまでの苦しい生活とのコントラストもあって、晴れ晴れと余裕と夢の感じられる財政状況が生まれているに違いないし、人々が認めて(つまり選ばれた議員を通して)借金を積み重ねる事で、今まで、実際以上にいい思いをしてきた(はずな)のだから、なにも理不尽な借金返済でもあるまい。同時に、全国各地におびただしく作られた赤字空港を見ながら、人々が夢見た「豊かさ」とは何だったのか、或いは、無理をして投資をすれば、それをはるかに上回る見返りが生まれてくる、という発想の是非といったことに改めて思いを致してみるのも、人間の将来的な成長のためには有益であろうと思うのである。現在の日本は、国から市町村に到るまで、借金によってまったく自分たちの実力以上のことをやっている(きた)のであって、ここらで借金を正面から見つめ、自分たちの身の程を知ることは大切である。何事においても、出発点は「己を知る」ことだ。

増税の議論と関わって、「大きな政府」か「小さな政府」かという議論も聞こえる。これは政治の基本姿勢として重要であるが、実際上、私はあまり議論に意味があるとは思っていない。なぜなら、人々は明らかに「大きな政府」を求めているからである。例えば、自然災害でさえも政府(若しくは自治体)の援助・補償を求め、すぐにその責任を追及せずにはいられない。その背後には、世の中が便利になりすぎ、また、人間関係、地域社会の結びつきが希薄となり、何かを仕方のない事として受け入れ、我慢したり、自分たち同士で助け合うことで解決させたりする事が出来なくなっているという事情がある。これは非常に構造的かつ感情的な問題であって(しかもマスコミがそれを増幅させ、「大きな政府」へと進まないことを不可能にしている)、理屈で「大きな政府」か「小さな政府」かなど言ってみた所で始まらない。にもかかわらず、人々はお金を払うのは嫌だという、非常にわがまま勝手な心性を持っていて、その結果、払う事を考える時だけ「小さな政府」を渇望する。つまり、サービスは「大きな政府」、納税は「小さな政府」という、あり得ないダブルスタンダードである。

 私はかつて、経済的に行き詰まった時に、現代はなぜ江戸時代的な倹約が出来ないのか、という疑問を書いたことがある。今もやはりその疑問はあって、江戸時代的な道が私達の取るべき道だと思っている。各家庭レベルで考えてみてもよい。収入以上の借金をしながら借金の返済をしつつ、同時に「いい生活」を目指す、そうすればやがて「いい生活」に見合った収入が生まれてくる、などと考えるのがいかに異常なことか、容易に分かるはずだ。その時、じっと我慢して、なんとか借金を返してしまいたいと思うのは私だけだろうか。政府レベルについても同じだろう、と私は思うだけである。

 長くなったので最後に確認。私は、過激な増税容認派であるが、増税の結果が借金返済でなく、更なる消費であれば、消費の内容に関係なく絶対に反対派である。