海の色と船形山



 連日暑い。しょせん石巻なので、東京、大阪は言うに及ばず、仙台と比べてさえ2〜3℃低く、耐えられないほどというのではないのだが、「暑い、暑い」と言いながらぐだぐだしている生徒を見ていると、具合が悪くなってくる。この暑さもいい加減にして欲しいなあと思うが、先は見えないらしい。

 何度か書いたこともあるが、我が家は実に見晴らしのよい高台にある。海がどのように見えるかで湿度が分かるのだが、このところ、朝起きると海も牡鹿半島も、空気中の水分のために白くぼんやりと霞んでいて、どこがどこやら分からない状態が続いていた。ところが、昨日は朝から真っ青な海が見えていた。これは湿度60%の色だ、などと思いつつ湿度計を見ると、ぴったり60%を指していた。

 さて、週末は船形山へ行っていた。今回、船形山を目指した一高山岳部は仙台出発が早く、石巻始発でも間に合わない。幸い、信頼すべきOBコーチもいらっしゃることだし、私は升沢小屋で合流して、顧問・コーチと「歓談」(笑)だけすることにしたのである。

 昨日、旗坂野営場を出発したのが12:15。さぞかし暑いだろうと覚悟して行ったが、案外山の風はさらりとしていた。朝見た海の色が思い浮かんだ。暑さを苦にすることもなく、丁度2時間で升沢小屋(標高約1230m)に着いた。一高山岳部はそれから小一時間後にやって来た。「名門」一高山岳部も、今や部員数はわずか1名。家庭的なのはいいが、やはり寂しい。

予想外に強くて乾いた風が吹いている。5時頃になると、半袖のTシャツ一枚では寒くて外に出られなくなった(標高が高いからと言ってしまえばそうかもしれないが、本当に蒸し暑い時には、山の上でも案外気温は下がらないものなのである)。自然の状態で「寒い」と感じたのは、一体いつ以来だろうか?と考える。どうしても思い出せない。例年、8月といっても「肌寒い」日くらいはあるものだが、今年はそんな日さえ一日もなかった。

 今日は絶対に寝袋はいらない、と、シュラフカバー一枚で眠りに就いた。夜中、寒くて目を覚ました。トイレがてら外に出てみると、素晴らしい星空だった。これほどくっきりとした天の川を見たのも、いつから以来か見当がつかない。山の深さと、空気の乾燥を感じた。

 今日は7時に快晴の船形山頂(標高1500m)に立った。西から南にかけて鳥海山、月山、朝日、飯豊、吾妻の各連峰、北を見ると新庄神室から栗駒早池峰と本当に美しかった。山形盆地は雲の下、宮城県側も下界はボーッと霞んでいる。下界は今日も蒸し暑いのだろう。

 からりとして、いかにもいい秋山なのだが、下山時、ふと気が付いたのは赤とんぼの少なさだ。いつも、8月末から9月初めの奥羽山脈は、おびただしい数の赤とんぼが舞っているものだ。今年は「まだ」ということなのか、それとも、今後も含めて今年は赤とんぼのはずれ年なのか、と気になった。

 蛇が岳の分岐で一高山岳部と別れ、一人で旗坂に下りた。10:30下山。

 13時頃に帰宅した。驚いたことに、今日も、しかもこの時間に、海が真っ青に見えていた。夏が延々と続いているようだが、もしかするとこれは秋の気配なのではないだろうか?季節は山から里に下りる。昨日の升沢小屋での寒さをも思い出しながら、少し嬉しい期待を感じた。