旧さくらの百貨店の解体と石巻の復権


 我が地元石巻で、現在二つの大きなビルの解体工事をしている。どちらも旧北上川に面した、地上6階建てくらいの、石巻としては「超高層建築」である。一つは、旧さくらの百貨店、もう一つはリバーサイドホテルだ。

 ホテルはさておき、マンガ館の川を隔てた西向かいに建つ旧さくらの百貨店ビルは、私が石巻の住人となった平成元年には、まだ「ダックシティ丸光」という名前のデパートとして営業していた。それが「さくらの百貨店」に変り、間もなく、駅前に移って空きビルとなった(駅前に移ったのと、さくらの百貨店になったのが同時だったかも知れない。この辺、記憶があやふや)。その新さくらの百貨店も閉店して、今は市役所になっている。これほどの変化が、僅か20年の間に起こってしまう時代というものに、私はなかなか付いて行けない。

 もちろん変化はデパートだけではない。そもそも、デパートなるものが、なぜ駅から歩いて10分もかかる川縁に建ったかと言えば、そこが昔の石巻の中心だったからである。聞くところによれば、現在、外洋に面してある魚市場は、かつて北上川の東岸である湊地区にあり、更にその前には川の西岸である正に旧さくらの百貨店界隈にあったらしい。そして、そこに魚市場のあった時代が、国際条約の縛りや資源枯渇問題とは無縁の、水産業全盛期であった。市場には大量の水揚げがあり、その背後に懐豊かな船員を相手とする旅館や飲食店の類が密集し、石巻の繁栄があったということだ。

 今や、往事の面影は全くない。旧さくらの百貨店から駅へと続く商店街は、いわゆる典型的なシャッターストリートとなった。商業地区の中心が、数㎞西の蛇田地区に移った、というのも確かだが、決してそれだけではない。水産業の停滞に歩調を合わせるように、過疎化も進み、活気も失われていく石巻を、旧さくらの百貨店の解体は象徴しているようだ。

 ところで、今年の夏は暑かった。しかし、いくら暑くても、石巻の暑さは、石巻としては異常だったというだけで、至って平凡なものである。気温が体温を超えるとか、熱帯夜が何日も続くということは決してない。毎日、天気予報の際に報じられる、最高・最低気温を見ながら、仙台と比べてさえ常に2〜3℃は低い石巻の気候をありがたいと思った。また、冬になると石巻の方が低いことも多いが、特に寒い日に限って、石巻の方が暖かいということも多い。雪もほとんど降らない。気候のよさに関して言えば、全国でも有数の場所であろう。

 温暖化の影響が深刻に語られるこれからの時代、気候がよいということは非常に重要な価値である。宮城県は、仙台とそれ以外しかないという特殊な、若しくは異常な県である。しかし、何事にも波はある。ここは、長期的に見れば、復権すべき場所なのではないだろうか。