平易なれど珍(平居姓について)



 今日は卒業式だった。この日に合わせて、図書館から『眺海』という冊子が発行された。新任だからという理由で、「自分の姓について何か書け」という命令を受けたので、以下のような駄文を寄せた。ここにも載せておくことにする。


 私の姓は、小学生でも知っているごく平易な漢字の組み合わせであるが、意外にも目にすること甚だ少ない。

 私の父親は三重県の生まれである。しかし、三重県内に、父の実家以外に「平居」という姓は存在しない。今までに「同姓」と出会ったこともない。宮城県内にも、私の実家(名取)と我が家以外に、おそらく「平居」は存在しない。

 私は大阪府豊中市で生まれ、1歳半から中2の7月までを宮城県名取市で過ごし、兵庫県龍野市(現たつの市)に引っ越した。龍野市のある「西播」(兵庫県瀬戸内東部)地区の電話番号簿を探してみて、私は初めて、自分の家以外に「平居」を発見した。姫路市内の布団屋さんである。私は勇気をふるって電話をかけてみた。「私も平居といいます。非常に珍しい苗字で、私の家の他に、平居という家を知らなかったのですが、平居さんはどちらのご出身ですか?この苗字の由来についてご存じのことがあれば教えて下さい。」姫路の平居さんは、こんな電話に驚いたであろう。それでも知っていることは教えてくれた。それによれば、姫路の平居さんは岡山県の出身で、実家の界隈には何軒かの「平居」姓が存在するという。ただし、その由来は不明であるとのことだった。

 図書館にある数冊の苗字関係の本にも「平居」は載っていない。仕方がないので、文明の利器、インターネットで検索する。世の中には「苗字ファン」がたくさんいるので、姓に関するなかなかマニアックなHPがいくつか存在する。どのような資料に基づいて書いているのか、その典拠は不明であり、数的なデータにもばらつきがあるが、「平居」姓を名乗る人間は、全国でだいたい1500人、世帯数で400弱、多い順番に並べた姓ランキングで6200番といったところかと思う。本当にそんなに居るのだろうか?電話番号検索サイトで探すことの出来る「平居」姓は、全国で10軒ほどに過ぎない。また、あるサイトには、「近江国愛知郡平居村が発祥の地である。来歴は分からない。摂津国川辺郡には名家が存在する。現在滋賀県に多い。」とある。真偽は確かめられていない。

 漢文で「平居」というのは、「普段」「常日頃」の意味なので、ご先祖様がよほど平々凡々なる人物だったということなのだろう、と私は推測している。

 私が不思議なのは、町の文房具屋で三文判が簡単に手に入ることである。最近は既製品の三文判も種類が増えたとはいえ、これほど出会うことまれな姓を、石巻あたりの文房具店でも用意してあるのはなぜであろうか?

 「平井」と書かれることは日常茶飯事だし、珍しい姓は目立つから嫌だなあ、と思うことも多い。自意識過剰と言われるかも知れないけれど・・・。