純米酒 日高見



 天皇誕生日である金曜日は、朝から名古屋の私学・同朋高校の先生2名と生徒2名が我が家に来ていた。愛知ボラセンのバスで来て途中下車、ちょっとした縁のある石巻市立女子商業高校の生徒と交流するためである。その後私は、彼らを女川、寄磯、谷川と案内し、牡鹿半島給分浜の民宿「めぐろ」でボラセンの本体と合流して、そのまま宿泊、知己と酒を酌み交わした。ほとんど全滅に近い大原、給分浜で、数少ない奇跡的に生き残った建物である。今まで、ボランティアとして出入りすることはあっても、「めぐろ」自体が宿泊に耐える状況になっていなかったこともあって、念願かなっての宿泊なのだとか。愛知のメンバーにボランティアとしてのリピーターが多いこともあり、宿の親父もテンションが高い。

 私は、地元民を代表して、ちゃんと酒を2本ぶら下げて行った。私の愛する「純米酒 日高見」(平孝酒造)である。

 私は、9月28日の「名古屋めし」と題する記事で、名古屋と宮城の食べ物を比較し、「人間が手を加えていない(切る程度は必要だが、加熱していない)ものには、宮城にも多少の味わうべきものがあるにしても、人間が手を加えたものについては、日本酒以外に太刀打ちできるものはない、というのが私の結論である」と書いた。その宮城の誇る日本酒の筆頭に来るのがこの酒だ。

 とは言え、私は、必ずしも「この酒が、宮城の酒で一番うまい」と主張するわけではない。ただ、値段と質との関係で考えてみると、他の追随を許さない、と思われる。参考までに、私の知る中で最強の「酒通」と思しきK氏もそう言っていた。5000円も8000円も出せば、他にもよい酒はあるかも知れない(口にする機会が少なすぎて断定できない)。しかし、そんな酒を「うまい」からと言って、日常的に買える人間は少数であろう。コストパフォーマンスで考えて、宮城の酒のベスト3は「純米酒 日高見」、「山廃特別純米酒 円融」(大崎市一ノ蔵=ここの酒は全体的に高品質。次の「春陽」を省いて、この蔵の「無鑑査本醸造辛口」をベスト3に入れてもよいが、ひとつの蔵で一銘柄として「円融」)、「特別純米酒 春陽」(石巻・墨廼江酒造)である。

 さて、愛知ボラセン・夜の宴会では、私がこの酒の宣伝スピーチをした、などということもなかったにもかかわらず、甚だ好評であったと思う。売れ行きがよく、早々になくなってしまったし、ラベルを写真に撮る姿もけっこう見られた。翌朝、彼らがバスで出発するのを見送る時には、わざわざ礼を述べて感想を語ってくれたご婦人もいた。

 地元民である私は、彼らと仮設住宅の慰問に行くよりも、こんな事でもしていた方が、よほど復興に貢献することになるだろう。ちなみに、やはり宣伝の意味を兼ねてあちこちに送ったお歳暮は、渡波高砂長寿味噌本舗」の味噌・醤油であった。こちらもよろしく。


(注意)平孝酒造の酒で、ごく一般的なのは「本醸造 日高見」(茶色の瓶、白いラベル)と「純米酒 日高見」(緑色の瓶、萌葱色のラベル)である。値段の差は700円であるが、質はそれ以上に違うと思う。ここで700円をけちってはいけない。