えちぜん鉄道・・・究極の臨時駅の話



 29日(日)は、移動日だった。恵那から名古屋までは中央線の快速で1時間強、そこから福井までは特急だと2時間半、合計4時間弱で着いてしまうので、どこへ寄り道をしようかと悩んだ。気が狂うほど暑いというのは予想できたので、これは外をうろうろ歩くよりも、例によって鉄道に乗ってぼんやり景色を眺めているに限る、と思い、名古屋〜京都〜舞鶴敦賀〜福井と移動することにした。目指すは、まだ乗ったことのなかったJR小浜線である。思ったほど海が見えなかったのは残念だったが、のどかないい時間を過ごすことができた。

 30日(月)は、開会が13:30だったので、午前中、「えちぜん鉄道(旧京福電鉄)」に乗って三国方面に行くことにした。福井駅に自動券売機がなく、駅員さんが出札口で切符(残念ながら硬券ではなく、券売機仕様のペラペラのもの。ただし、「○○から××円区間」ではなく、「○○から△△」と乗車駅、下車駅の名前がしっかり書いてある点が立派である)を売っていたのにまず驚いた。更には、改札口で駅員さんが切符に鋏(=スタンプではない)を入れていた。これは珍しい!!!今や、他には存在しない光景なのではあるまいか?帰りに乗車した「あわら湯のまち」駅も同様だった。

 しかも、復路に乗った電車は、ワンマン構造の単行運転(1輌だけ)なのに、女性の車掌が乗っている。自分では「アテンダント(案内人、接客係)」と名乗っていたから、車掌(コンダクター)とは違うのかもしれない。確かに、通常車掌が行うドアの開閉や出発合図は運転士がやっていて、アテンダント無人駅から乗った乗客への切符売り(ワンマン車両なので不要なはずなのに・・・)だけをやっている。 

 合理化、合理化と、いかにして従業員を減らすかにしのぎを削っているかのような昨今において、ずいぶん人の使い方の贅沢な会社だなあ、これが雇用の確保=社会貢献という理念に基づいているとしたらたいしたものだな、と感心した。それでも、出札はともかく、あの小さな車両に、わざわざアテンダントを乗せることもあるまいに・・・などと、少し会社の経営まで心配しながら、運転手の斜め後ろで、じっと前方をにらんでいた。

 復路「鷲塚針生」という駅を出て、「中角」までの中間点くらいまで来た時、小さなホームのようなものがある所を通過した。鉄骨の上に載った台だけで、待合室も駅名表示もないので、私は廃駅なのだろうと想像した。とその時、すぐそばにアテンダントがいることに気づいた私は、それが何か尋ねてみた。すると、以下のような話が聞けた。

 「あれは今でも駅として使われています。駅のすぐ西側に、仁愛学園の体育館とグランドがあったのがお分かりでしょうか?他には何もない所です。9月のある日、そこで仁愛学園の運動祭が開かれるのですが、その日1日だけ、何本かの電車が止まるんです。私も、もう何年かこの仕事をしていますが、1度も止まる列車に乗ったことはありません。車内販売用の切符にも、路線図にも名前は載っていませんし、料金がどうなるのかも実は知りません。」

 ふ〜ん、1年間にたった1日だけしか使われない、しかも関係者しか利用しない駅とは、全国で最も臨時性の高い臨時駅であるに違いない。面白いものである。同時に、アテンダントの存在価値を疑った直後に、アテンダントが私にとって価値ある存在になったことが、少し滑稽に思えた。

 初めて「はやぶさ」にも乗ったし、31日は大会の終了後、金沢で北陸鉄道の2路線を乗り歩くなど、今回も出張にかこつけて鉄道で大いに楽しむことの出来たいい旅行になった。福井鉄道(福井〜武生)に乗る時間がとれなかったことだけが、少し心残りとなった。