『イワナの謎を追う』



 先日、登山の新人大会に助っ人で行っていた話を書いた。その時のことである。2日目の夜、旅館で出されたイワナの塩焼きを見ながら、他の2〜3の顧問とちょっとしたイワナ談義をした。アメマスという魚は、イワナが海に下ったものらしいが、この辺のイワナも海に下るのであろうか?名取川下流イワナを釣ったという話は聞いたことがないが・・・というあたりから、話は迷走を始めた。

 昨年の8月17日に、私は、大学3年目(1983年)の夏に北海道えりも町で、昆布採りのアルバイトをしていた話を書いた。早朝から昆布を取って、それを浜に干し終えると、しばらくはすることがないので、私が住み込んでいた漁家の親方と、沖に刺し網を揚げに行く。獲物を市場に出すことはない。自宅でその日のおかずにする魚を獲るだけの、ささやかな漁である。獲れる中で最大の魚は、アメマスとアキアジ(鮭)だった。アキアジにはまだ脂がのっておらず、見た目が立派なばかりで、お世辞にも美味いとは言えなかったが、アメマスは絶品だった。魚というのはこんなに美味いものなのか!と思った。

 翌年、岩波新書イワナの謎を追う』(石城謙吉)が出た。この本を読んで、私はアメマスが実はイワナであることを知った。その驚きは大きかった。どう見ても、アメマスとイワナは似ても似つかぬ魚だった。色(肌も身も)といい、大きさと言い、共通するものを私は何も見出せなかったのである。この時、北海道にはオショロコマという、別種のイワナもいることを知った。

 新人大会から帰ると、私はこの本を書架から探し、久しぶりで読んでみた。疑問は解決されなかった。この本は、北海道に住むイワナとヤマメだけを扱っていた。宮城県の山間に住むイワナが、それと同じ生態であるという保証はなかった。しかし、私はとてもいい本だと思った。「研究」というのがどのような作業なのかを高校生に知ってもらうために、である。

 寒さと熊の恐怖に耐え、自ら北海道各地でイワナを釣り歩き、さほど立派とは思えない装置を使って実験を繰り返し、動物生態学に関する基礎的な文献はしっかり読んでいる。疑問というのは、たかが小さな川魚に関わるものであっても、こうして忍耐と創意工夫をもって解き明かしていけば、答え(新たな発見)となって、何倍もの喜びとともに返ってくるのだ。この本は、そんなことを平易な言葉でよく伝えてくれている。