「桃浦かき生産者合同会社」という試み(1)



 今日まで3日間、水産高校の2年生は、インターンシップに行っていた。今日、私は自分の受け持ちの会社という所に、生徒の様子を見に行った。

 先日も書いたとおり、私の受け持ちの一つに、「桃浦(もものうら)かき生産者合同会社」というところがある。震災後に壊滅した沿岸漁業、養殖業を復旧させるために宮城県知事が、漁協の反発をねじ伏せて実現させようという「漁業特区」を活用する初めての具体的な試みだそうである。私は新聞を読みながら、漠然としたイメージと理解とを持っていたのだが、打ち合わせのために行っては小一時間も話を聞き、生徒の様子を見に行っては小一時間も話を聞き、その何たるかがおぼろげに分かってくると共に、それ以前の理解が間違いであったと気付くことになった。「漁業特区」という言葉は、知事と漁協のバトルもあって、ひどく有名だが、多くの人は私と同様、決してよく分かっていないと思うので、私自身の復習のためにも、聞いてきたことを少し整理しておこうと思う。さほど長い時間をかけたわけでもない、ただの耳学問なので、誤りも多く含むかも知れない。

 まず、それ以前の浜の漁業とどう違うのかということを確認しておく。

 (従来)

 県が漁協に漁業権を与える。漁協は漁業者にその漁業権を貸して、賃貸料を徴収する。漁業者は漁業権を借りた海域で養殖をし、水揚げは漁協を通して販売する。

 (特区)

 漁業権は会社に与えられる。社員である漁業者は共同で養殖を行い、販売する。販売は漁協を通す必要がない。

 何が違うかと言えば、作業の共同性が高まると共に、従来は、漁業権を得るにしても、販売するにしても漁協を通していたのが、直接的となるということである。その結果、水揚げした魚介類を加工して、直接消費者に届けることも可能である。もちろん、漁協に支払ってた漁業権の賃借料や販売手数料も必要ない。

 現在、政府は農水産業を「6次産業」化しようという方向で考えている。「6次産業」とは、1次産業(=生産)+2次産業(=加工)+3次産業(=販売)、すなわち生産から販売までを同じ人が行うことを意味する。一人で扱える量は減るかも知れないが、それぞれの過程で付加価値を付けていくことで利益が増える上、創意工夫の面白さがあり、消費者の顔(反応)が見えるのでやりがいが増す、というメリットがある。特区による会社は水産業を6次産業化していく上でも、有効なのではないか、ということだ。

 今回の「漁業特区」構想に漁協が強く反発したのは、漁業権の貸与、生産物の販売において、漁協に利益がもたらされなくなるからである。つまりは、漁協の既得権を脅かすことになる。一方で、漁業者の側が諸手を挙げて歓迎しなかったのは、たいていが漁協に借金を背負っており、漁協のご機嫌を損ねるのが怖かったからである。桃浦の漁業者が、漁協との関係悪化をさほど気にすることなく、漁業特区を生かして新しい会社を立ち上げようとできたのは、彼らが漁協にほとんど借金を持っていなかったことによるらしい。(続く)