「桃浦かき生産者合同会社」という試み(3)



 「桃浦かき生産者合同会社」の目的は、利潤の追求ではなく、浜の再生なのだと言う。ここには豊かな海がある。にもかかわらず、漁業特区という制度を生かして、再びカキの養殖を再開した桃浦の14人のメンバーも、平均年齢は65歳。このまま行けば、10年は保たないだろう、と言うのも無理はない。

 ところが、見ればメンバーが15人いる。なぜ1人多いのだろうと思ったところ、自己紹介の時に理由が分かった。その中の最年少、40歳ほどのSさん(直接話を聞いてみたかったけど、今回はその余裕がなかった。またそのうち・・・)が、この会社で初めての新入社員なのである(設立者の1人に加わっているようなので、「新入社員」が正しいかどうかは?)。縁あって、もともと漁業には一切関係したことのない内陸住まいのSさんを誘い、社員にしてしまったというわけだ。

 実は、現在ハロー・ワークに求人票も出しているのだそうだ。事務職と漁業職と両方である。会社の代表者(「社長」ではなく「代表社員」と言う)であるKさんも、「何人募集しているか?」という問いに対する答えが曖昧だったから、このあたりも仙台水産が請け負っているのかも知れない(未詳)。

 10年のうちに、若い人に技術を継承したい、6次産業化の中で、新商品開発や新しい販路の拡大を実現させたい、浜の大半は津波にやられてしまったが、浜の東端にある荻浜小学校は、校地が少し高いせいで浸水を免れた、生徒数の極端な減少のために、あと2年ほどで廃校という話もあるので、そうなった後、校舎を譲り受けて社宅とすれば、浜の外からも人を集めやすくなるだろう、若い人を引きつけるためには、マリンスポーツなどもできるようにした方がいい・・・Kさんはいろいろな夢を語ってくれた。

 反対派が、「漁業特区」なんて必要ない、桃の浦のような試みは、従来の枠の中でも出来ることだ、と主張しているという話を以前聞いたことがある。真偽は分からない。しかし、会社という一つの組織になって、そのメンバーに生まれた「仲間」の意識は、個人漁業者が必要に応じて協力し合うことで出来る仲間意識よりも、ずいぶん強いように思われる。いろいろ夢のある話を聞かされて、なんだか私も仲間に入れて欲しいような気がしてきた。

 私は最近、第1次産業にひどく心引かれる。水産高校に勤務するようになったから、ということではないと思う。目に余るエネルギーの浪費、エネルギー資源枯渇の心配、温暖化問題などを見ていて、最後はやはり「食」だな、と思うからだ。他のどんな産業も、人間の生活に余裕が生まれたからこそ成り立つものであり、人間の生活に余裕が生まれたのは、第1次産業を大規模展開できるようになったからである。それは石油と切っても切れない関係にある。今の人間の産業・文化の大部分は、石油を燃やすということの上に成り立つ砂上の楼閣に過ぎないといつも思う。

 話を戻す。浜を再生する必要があるのかどうか、それが長くそこに住んでいた人の感傷ではないのかどうか、その問題は面倒だ。しかし、この美しい牡鹿半島の海を見ながら、特別なことをしなくても、貝殻を海中に下ろしてやるだけで、自然にカキが育つという恵みの海の豊かさを思う時、それを生かさない手はないな、と思う。仮に桃浦に定住しなかったとしても、この海を利用し、より豊かな食生活を実現させるために、何かしらの形で漁業が行われることは意味のあることだ。この半月で2度、桃浦を訪ねて、そこへ向けての確かな動きを実感することが出来たのは嬉しい。浜が再生されるかどうか・・・?それは分からない。楽しみに見守りたい。(今回は完)