明るくめでたい新年・・・S君に会って



(1月8日付学級通信より)


 冬休みも今日でおしまい。事故などの連絡も入っていないので、それなりにいい冬休みを過ごしたものと思う。まずは、よかった。

 私は特別どこへ行くということもなく、子供と遊んだり、本を読んだり、人と交流を深めたりして過ごしていた。

 さて、1月2日、私は以前顧問をしていた石巻高校ワンダーフォーゲル(登山)部のOB会に出席した。終了後、2次会というものに行き、少人数でチビチビ酒を呑んでいたところ、ドヤドヤと数人の若者が入ってきた。目が合って、それがやはり石高の教え子であることに気付き、お互いに顔を見合わせて「あっ!!」と声を上げた。中にS君がいた。

 S君は一見おっとりとしていて穏やかであるが、柔道部に所属して頑張っていた。頭がいいか悪いかは知らないが、根性の強さはピカイチだった。正義感にあふれ、法曹(弁護士だったか検察官だったか?)になりたいと言って東京の大学に進んだ。私は進学校に長くいたので、かつて受け持った生徒で法曹希望はたくさんいるが、何しろ日本で一番難しい国家試験と言われる司法試験に合格しないとなれないので、実際に法曹になった人はほとんどいない。私は、その学年で法曹になれるとしたらSかな、と思っていた。その厳しい勉学に耐えられるだけの信念と根性の持ち主が、他に見当たらなかったのだ。その後、私は折に触れてSのことを思い出し、どうなったかな?と思っていた。

 多分、彼が卒業してから会うのは初めてだ。私はそれをSと認めるや、開口一番、「どうだった?」と尋ねた。それだけで彼は理解出来たらしい。顔を輝かせて、「はい、おかげさまで去年合格出来ました!」と答えた。差し出された名刺には、「第66期司法修習生」と書かれていた。

 あぁよかった、やっぱりSは本物だ、と思った瞬間、私は彼がいつの卒業生だったかを考え、それが17年前であることに思い至って愕然とした。大学を卒業してからだけでも13年が経つ。聞けば、大学卒業後、司法試験に落ち続け、その間に制度が変わってしまったので、改めて法科大学院という所に入って勉強を続け、昨年ようやく合格出来たのだそうだ。

 本物の「夢」って、こういうものなんだろうな。私は、彼が不合格となり続けた13年間の不安と苦しさを想像しては、胸が締め付けられるような思いになったが、それだけに、正義感の強いSが法曹になれることを心から喜び、祝ったのだった。明るくめでたい新年であった。

(他の記事は省略)


(裏面:1月3日付『朝日新聞』より社説「高校生の皆さんへ 支え合いに取り組もう」を引用。

平居コメント:少し難しいのだけれど、何しろ「高校生の皆さんへ」だ。また、諸君もあと1年あまりで社会に出る人が多いし、進学する人も含めて全員があと3年ほどで有権者になる。とすれば、この手の話も避けて通ることは出来ない。)