まだ5ヶ月の『それゆけ、水産高校!』



 このブログを定期的に読んで下さっている方の中でも、『それゆけ、水産高校!』という本の名前を聞くと、ああ、そんな本もあったなぁ、という感じがするのではないかと思う。まだ、世に出てから半年にもならない。

 今日の『石巻かほく』というローカル新聞に、この本の紹介記事が載った。新聞の6分の1面という驚くほど大きな記事である。この新聞を出している三陸河北新報社の記者が学校に取材に来たのは、確か3月末のことであった。最初の半月ほどは、いつ記事になるのか気にしながら見ていたが、1ヶ月も経つ頃には、記事としてボツになったのだろう、と思うようになって、ほとんど意識しなくなっていた。だいたい、忘れた頃になって何かが起こる、というのはよくあることである。

 ところで、取材を受けた時、その記者の一言に、私はとても驚いた。それは、「もう出てからずいぶん経つので、どういう取り上げ方にしようかなぁ・・・」というものであった。「ずいぶん経つ」とは言っても、その時点でまだ3ヶ月あまりに過ぎない。出版社に原稿を送ってから本になるまでだけでも半年かかったのに、それが3ヶ月で「ずいぶん昔の本」になってしまうのは、なんとも気の滅入る話である。

 そこには、世の中で「時間」がどのように流れているかがよく表れているだろう。時間の流れが加速しているのは、多くの人に実感されることで、私もこのブログの4月8日の記事に書いたばかりである。作家や芸能人、新商品の登場と没落を見ていると特に強く感じるのであるが、世の中のはやり廃れの速さと激しさは、まるで暴れ馬のようで、もはや現代人には「無常」を意識する暇さえない、と思うほどである。

 しかしながら、仮に『それゆけ、水産高校!』が「ずいぶん昔の本」になってしまったとしたら、刊行直後ではなく、今の時期に記事にしてくれるのは、逆にありがたいことである。私としては、この半年弱で内容的に古びてしまい、役割を失ったとは思っていない。

 記事の最後に、私の言葉として、「一番読んでほしいのはこれから進学する中学生や水産高校以外の高校生。将来の進路について参考にして欲しい」という引用がある。なにぶん1ヶ月半も前の取材なので、私自身もいささか記憶があやふやだが、本当にこう言ったのかなぁ?と少し思うので、補足しておこう。

 中学生に読んで欲しいのは確かだ。だが、私としては、「中学生向けの水産高校進学ガイド」としてだけ見られるのは困る、という思いも非常に強い。水産高校の日常を紹介する体裁を取りつつ、日本の水産業や学校・職業選択、教育問題その他いろいろなことをちりばめて、考えるきっかけを提供している本だからである。だから、「中学生に読んで欲しいのは山々だが、それ以外のあらゆる階層の人々、そして、私には水産業も水産高校も関係ありません、という人にこそ手に取って欲しい」というのが本心として正しい。

 ところで、『それゆけ、水産高校!』の「あとがき」の最後を、私は、「この本は、水産高校の本来の姿を確かめ、その復活を思い描くための意味深い本となった」と結んだ。宮水が渡波の校舎に戻ったのは、『それゆけ、水産高校!』刊行の1週間後だった。とは言え、復旧したのは校舎だけで、実習施設はまだまだ、という状態だった。それから5ヶ月、「ずいぶん経つ」が、この間に、栽培実習場の循環ポンプや食品加工場の超低温倉庫、カッター1艇などが修理を終え、水産高校は一段と「本来の姿」に近づいた。しかし、今後始まる防潮堤工事のために、逆に艇庫が取り壊しになる予定などもあり、迷走状態から脱したとはまだまだ言えない状態である。その間くらい、私の本が命脈を保ってくれるといい。


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