強烈な個性の魅力・・・仙台一高応援団幹部の面々



 間もなく、台風が頭上を通過するらしい。我が家から見える海は、のたうち回るような大荒れだ。あと半日遅く来てくれたら、明日の午前中くらいは休校になったかも知れないのに・・・などと、生徒のようなことを考える。

 さて、昨日から、前任校(仙台一高)の生徒を連れて(と一緒に?)学校所有の山小屋に行っていた。台風の接近はもちろん分かっていたが、山歩きというほどの山歩きをする訳でもなく、樹林帯の中の山小屋に泊まりに行くだけなので、「決行」となった。

 例年行われている「山小屋ホームルーム」という名の体験宿泊会であるが、今年は山岳部に大量入部があった上、一般の生徒の応募も多く、合計で29名の生徒が参加した。OB・引率も含めると34名(うち女子12名)の大部隊である。私の山小屋引率史上最大数だ。さすがにこれくらいの人数になると、風雨で窓を開けられなかったこともあって、本来はひっそりとした山小屋が、会話に不自由を感じるほどの喧噪の場となる。人数が多くて、食事の準備も大変な中、生徒はてきぱきとよく動き、なんの不愉快もなくイベントを終えることができた。今日は、少しでも早く下山した方がよいと、午前中には学校に戻った。

 ところで、今回の体験宿泊会に参加したのは、現役生徒と山岳部OBだけではなかった。私が引率者として参加するという情報をgetした57回生の応援団長T君が、私と語り合うために参加を申し出、来てくれたのだ。年賀状等のやりとりは多少あったが、ゆっくり話をするのは、私が宮水に異動となって初めてかも知れない。

 聞いていると、現在、工学部で大学院博士課程に在学するT君の生活は、非常にアクティブで、刺激に満ちていた。もともと、生徒だった時から私が深く尊敬していた人なので、その延長線上に今があると思えば、なんら異とするには足りないのであるが、それでも、世の中には失速する人だってたくさんいる訳だから、それはやはり嬉しいことだった。

 知らない読者のために少しだけ書いておくと、仙台一高の応援団幹部とは、旧制高校の精神と気風を受け継ぎ、ボロラン(ぼろぼろの学ラン)を着て、破れた学生帽をかぶり(「弊衣破帽」と言う)、腰に煮染め色の手ぬぐいをぶら下げ、素足に雪駄を履いて走り回っている人たちである。その生活は極めてストイックで、私生活の全てを犠牲にし、校威の発揚と学校生活の活性化のために日夜を問わずに活動していた。その自己犠牲があまりにも徹底しているので、敷居が高く、なかなか自ら応援団幹部になろうという生徒は現れず、常に人数が少ない(1〜3名)ので、その生活がますます苛酷になるという悪循環を生じていた。それだけに、敢えてそこに身を投じ、自らの誇りに基づいて滅私奉公に徹する諸君は、純粋で強固な精神を持つ硬骨漢で、面構えとて尋常ではなく、まったく時代遅れした野武士のような風貌と雰囲気とを身に帯びていたのである。私は彼らに対する深い敬意を持って、5年間も顧問を務めさせていただき(彼らの自立性故に仕事というほどのものはなく、名前ばかりの顧問ではあったのだが・・・)、そのことを私自身が誇りと感じていた。

 T君は、私が畏敬する応援団幹部の典型的人物である。そのT君と久々に話をし、特に面白かったのは、私が関わった数々の応援団幹部OBのその後の生き様である。これは、場合によってはただの懐旧談に陥りかねないのであるが、歴代応援団幹部の強烈な個性の故に、決してそうはならなかった。どこでどのような地位にあるかということに関係なく、その人間が独自に魅力と価値を持つというのはすばらしい。彼らが、政治や経済のために何をしているという訳でもないのだけれど、こういう人の存在こそが、私を間違いなく明るい気持ちしてくれるのである。