パンを抱く



 昨日は暖かかったのに、今日は突然寒い。加えて、「木枯らしもどき」の強風が吹いている。蔵王の初冠雪のニュースもあったし、本当に冬が迫っているんだな、と思う。

 以前書いたとおり(→こちら)、我が家の冬は寒い。そんな我が家の冬の風物詩(?)に、「パン抱き」というものがある。今日は、今冬の初「パン抱き」であった。

 我が家の朝食はたいていパンなのであるが、年間に消費するパンの95%くらいは私が焼いている。フタコブラクダのような山二つ、1斤半分の食パンを、一回に二個。それを週に1度か2度のペースだ。今はやりのパン焼き機なんて使わない。手でこねこねして部屋の中で発酵させ、1万円もしない付属機能ゼロの単純な箱形の電気オーブンで焼く。妻が「バカじゃなかろうか?」という顔で見つつ、「パン焼き機を買え」と繰り返し言うのだが、私は、食べる物を親が苦労して作っている姿を子供に見せるのは大切だ、とか言って譲っていない。「文化の質はかけた手間暇に比例する」(→こちら)という有名な(?)口癖もあるが、今や特に工夫を重ねるということもなく、ルーティンを繰り返しているだけなので、その口癖(思想)に基づくとは言えない。

 そんな作業をしていると、気温に非常に敏感になる。なにしろ、夏、室温が30度近い時にはあっという間に発酵するのに、冬、パンを焼く日には早めに帰宅するように努力しているにもかかわらず、通常の就寝時間までにパンを焼き終えることができるかどうかきわどい状態になってしまうのだ。10月に入ってから、特に1次発酵に要する時間がどんどん延びてきた。

 聞くところによれば、最近の電子レンジには、発酵機能なるものが付いていて、スイッチを入れれば所定の時間でパンの生地が発酵するようになっているらしい。「文明は人間を堕落させる」が口癖のひとつである私(→こちら)は、文明をできるだけ遠ざけて生活する努力はしているのだが、さすがに電子レンジくらいは持っている。しかし、その電子レンジは、我が家で最も古い電気機器であり、驚きの1985年製だ(本物の「チン」が聞ける!!!)。30年も昔の電子レンジに発酵機能は付いていない。

 そこで私は、気温が下がってくると、少しでも早く発酵を実現させるべく、本を読んだりテレビを見たりしながら、ステンレス製のボールに入れたパン生地を、ボールごと膝の上に置いて抱くのである。鳥が卵を抱くのと同じ格好だ。パン焼き箱に入れての2次発酵には使えない手だが、1次発酵の時間が短縮されるだけでも大きい。これが我が家の冬の風物詩「パン抱き」であり、今日が今冬の「パンの抱き初め」であった。おかげで、今日は18:20に作業を始めて、22:15に焼き終えることができた。これが、真冬には、いくら真面目にパンを抱いても、更に1時間以上の時間がかかるようになる。

 外ではますます寒そうな「木枯らしもどき」の音が聞こえている。