どうですか?「真由子」さん・・・部活動再論



 先週末、秋保で高校教員の任意の学習会に参加した話は既に書いた。その時、旧知のNさんに会って、また部活動が話題になった。「また」と書いたのは、以前から、Nさんと私は部活動について同じ問題意識を共有していて、時々、情報交換をしていたからである。翌月曜日、2人の同僚と石巻市内で夕食会をしていたところ、こちらは思いもかけず、部活動が話題になった。Kさんが、「部活が教員の仕事だなんておかしい」と言い出すとは思ってもいなかったのである。しかし、本当は、部活動が教員の職務であることに、問題意識を持たない方がおかしい。

 ちなみに、私はこのブログでも、2012年5月11日にすこしまとまった部活動論を書いた(→こちら)。将来的に部活をどうすべきかという点で、当時と今では少し考えが異なるが、部活動の持つ問題についての認識は変わっていない。簡単に整理しておくと、私の主張は以下のとおりである。

・部活動は学校生活における本末転倒の根源になっている。

・部活動は教員の職務ではないことを明確にすべきである(=部活動廃止論ではない。完全任意論である)。

・同様に、生徒に対しても加入を義務づけてはならない。

・従って、部活動による公認欠席は廃止すべきである。

・全校生徒の保護者からお金を徴収して、部活動費(特に遠征費)に当てるべきでない。

・以上の範囲内で、部活動を時間外にやろうとする教員・生徒には、学校として出来るだけ便宜を図る。

 最近、冒頭に書いたような私の身辺の二つの出来事のみならず、部活についてはいろいろと動きがあった。

 1月22日、兵庫県の龍野高校という学校(←なんと我が母校ではないか!)で、テニス部の練習中に熱中症で倒れ、重い後遺症が残った女性が兵庫県に対して起こした裁判で、大阪高裁が2億3000万円の賠償を兵庫県に命じる判決を出した。これは県に対する命令であって、顧問に対するものではないが、顧問に重過失を認めた場合は、県が顧問にその全部または一部を請求することが可能(求償権という)である。兵庫県が求償権を行使するかどうかは、今のところ私には分からない。この判決について、職場では、「部活の顧問なんてやってらんねえなぁ」という声を何度か耳にした。

 今月24日には、文科省が、全国の学校で起きた重大事故で、災害共済給付制度(保険)の対象となった558件を調査したところ、ちょうど3分の1が部活動で発生しており、場面別の最多であったという結果を公表した。

 このような頭の痛い、本来的にバカバカしい話がある一方で、教員が部活の指導をするのは当たり前という世間の意識が、そうそう簡単に崩れるとは思えない。しかし、この点についてもやや変化がある。

 昨年11月3日、『毎日新聞』に、論説委員・落合博氏の「部活動の顧問「真由子」はわがままか」という記事が出た話は、このブログでも紹介した(→こちら)。その落合氏は、その後も部活動に強い問題意識を持っていると見えて、今月はなんと2回、2月1日の「視点」欄「現場の悲鳴が聞こえる」(1月の大阪高裁判決を受けた記事)と、2月26日の「コラム発信箱」欄の「緩い部活」(高校における体罰の4割が部活で行われていたという文科省調査を受けた記事)を書いてくれた。これは、非常にありがたく、心強い援軍である。落合氏には、今後もぜひこの問題意識を持ち続け、広く世間にこのメチャクチャな不条理を発信し、できれば他の会社の記者も巻き込んで、キャンペーンを張っていただきたいと思う。

 状況を総合的に考えると、私たち教員もそろそろ部活動に関する問題を解決するための、超党派的全国組織を立ち上げるべき時になっているのではないかと思う。

 ところで、落合氏が強い問題意識を持つきっかけとなったらしいブログの主「真由子」は仮名である。これは、やはり実名を明らかにして動くと不都合な問題なのであろうか?仮名を使うのは、個人的な攻撃の対象になることを恐れるとともに、自分たちの部活の顧問が、部活反対論者であることを部員が知った時に、「先生は自分たちの指導が嫌なんだ」という意識を部員が持ち、教育活動がやりにくくなる(マイナスが、部活からクラスや授業に波及する恐れもあり)、ということによっているだろう。

 意外に思われるかも知れないが、私は、部活動が教員生徒ともに完全任意制になったとしても、山仲間を増やすという目的で、山岳部の顧問ならやってもいいかな、と思っている。すると、仮に任意ではない山岳部の指導をしながら、一方で公然と任意化の旗振りをしたとしても、さほど気はとがめないし、生徒との関係がおかしくなるという心配もない。

 ただ、もちろん、任意になったら部活動顧問など絶対にやるものか、という人も多数いるはずである。その中には、現時点で義務である以上、文句はあるが割り切って(あきらめて)、とりあえず真面目に指導に努めるという殊勝な人と、やっぱり勘弁してくれ、という当たり前の人がいるだろう。

 それでも、最後まで仮名で地下活動をしているわけにはいかない。アフターファイブどころか、土日も潰し、それによって家庭も犠牲にしながら、教科指導の専門家としての自己研鑽には時間を割けないという状況は、明らかにそれを放置している方が悪いのだから、自分の主張に自信を持って公然と活動すべきなのである。講師問題などと違って、教諭にはそれなりの身分の保証もある。その壁が乗り越えられなければ、なかなか部活動問題を全国的な動きにしていくことは難しい。どうですか?「真由子」さん。