工場見学会の敗北感



 一昨日は、大衡村主催の「インダストリアルツアー」というのに行ってきた。大衡村は人口約5500人、宮城県に残る最後の「村」であるが、宮城県北部中核工業団地なるものを抱え、トヨタ自動車東日本とその関連会社を始めとする多くの大規模工場が立地していて、製造品出荷額で宮城県内第5位、「富県みやぎ」を象徴する自治体としてその名を知られる(先日は、セクハラ問題を追及された村長が、居直って議会を解散したことでもその名を知られたけど・・・笑)。いったいいくつの工場を見せてくれるのか知らないが、これは面白かろうと、生徒の就職先開拓を大義名分(ではなく、事実!?)として出掛けて行った。

 参加したのは、県内各高校と高等技術専門校の就職担当者約20人。残念ながら、見学させてくれたのは、中央精機東北というスチールホイールの製造とタイヤの組み立てをやっている工場だけで、後は、役場で村長のお話や他の会社のプレゼンテーションを聞いたり、情報・名刺交換といった時間であった。

 それでも、工場見学は楽しかった。特に、スチールホイールを作っているラインは、蒸気ハンマーのような巨大な機械が大きな音とともに動き、金属を切ったりプレスしたり溶接したり、現場の迫力と躍動感に満ちていた。工場の中にいると、騒音大嫌いな私がうるさいと思うこともなく、むしろワクワクしてくる。組み立てたタイヤに空気を入れる技術なんて、意表を突かれてびっくり仰天であった。「アイデア」の偉大さを感じた。製品にエラーがないことも、誇るべき実績らしい。ラインの横に、外見検査で傷が発見されてラインから排除されたホイールが置いてあった。マジックで傷の部分にしるしが付けてあるのだが、本当に微細な傷であって、性能に影響する可能性が考えられないのはもとより、鍛えられた目でなければ、言われても気付かないようなレベルである。すげー。

 ところが、ここからが私である。ワクワクし、感心しながら、実は、心の中にそれと相反するものが渦巻いてくるのをどうすることもできない。私は、資源や環境の問題を考えると、経済を大減速させる必要がある、中でも、自家用車と飛行機は野放しにしてはならない、という信念とも言うべき強固な持論を持っている(→参考記事)。そんな私にとって、この工場で1年に200万本ものホイールを作ることが出来、タイヤ組み立てを行うことができるというのは価値とは言えない。まして、実質的な問題を何も引き起こさないような微細な傷のために、そのホイールを廃材として、新たに大量のエネルギーを費やし、ホイール材料となる鉄板やアルミ地金に作り直すなどというのは狂気の沙汰である。

 多くの優れた製品を作り出すことができる、そのことに対する感動も真。それが大量生産・大量消費というシステムの中でこそ成立し、資源と環境に大きなダメージを与えているということに対する嫌悪感も真。その間に立って、何ともスッキリとしないまま、それでも工場長にまとわりつくように質問をしながら、工場の中を一周したのであった。

 村役場の東側には、主に愛知県から移り住んできた人のための住宅地が開発され、おしゃれな家が建ち並んでいた。住宅地は完売し、その南側に第二弾が間もなく完成するそうだ。道路の幅は広く快適で、地元の物産を売る道の駅のような施設がある。その背後には、万葉クリエートパークという広大な公園だ。そこにある大規模なパークゴルフ場は日本離れして美しく見えた。料金も非常に安いらしい。原発城下町と一緒で、全てはお金があるからこそ出来ることだ。やっぱりお金はあった方がいい。こんな施設を見せつけられたら、自分たちの街もそうなって欲しいと、普通は思うだろう。

 資源も環境も、とりあえず今、全ての人が危機感を感じられる状態にはなっていない。そんな中で、こんな生活をあきらめろと言っても難しい。つくづくとそう感じさせられた。それは敗北感に近い感覚である。