大井川鉄道(2)

 大井川鉄道の印象については、昨日の記事に尽きるのだけれど、風景以外についてはほとんど書いていないので、冗長にはなるだろうが、情報的なことを少し書いておくことにする。昨日は総論、今日は各論といったところだ。
 さて、私は次のように動いた。

金谷11:04−(大井川本線)−12:17千頭12:28−(井川線)−13:40接岨峡温泉14:14−(バス)−14:40千頭14:53−(SLかわね路2号)−16:09新金谷17:17−(臨時)−17:21金谷

 金谷駅から乗った近鉄特急16000系の車両は2両編成。客は最初30人くらいだったが、走るにつれて増えていった。田舎の鉄道としては珍しい。鉄道の写真を撮っていたと思われる人の他、団体さんが2組あった。なぜ途中からなのかはよく分からない。車体はさほどくたびれていないが、保線の状態はあまり良くなく、それなりに揺れる。だから40㎞そこそこのスピードで走るわけだ。
 千頭駅に着くと、更に人は多い。先行していたSL急行に乗って来た人たちらしかった。相当数の人が井川線に乗り換える。
 期待の井川線は、本当に小さな列車だった。駅で買った『大井川鉄道公式ガイドブック』なるもので見てみると、幅が約1.8m、高さが約2.7m、長さが約11mなので、不通の車両と比べると、長さが約半分、高さと幅は3分の2といったところだ。ダージリン・ヒマラヤ鉄道を少し思い出す。幅が狭いので、座席は、2人掛けと1人掛け。天井に頭がぶつかるということはないが、網棚を設置する空間的余裕はない。驚くほど編成は長大である。井川側から書くと、客車×5+D機関車+客車×3+D機関車という超変則編成だ。これに加え、アプトいちしろ駅から長島ダム駅までのアプト式区間は、最後尾に電気機関車(D機関車や客車より背が1.2mも高い。電車ごっこをする子供たちの後ろに大人が付いた感じ)が2両増結される。客車8両に機関車4両というのはびっくり仰天。客の多さを見越しての長大編成で、通常は機関車1両と客車3または5の編成らしく、途中の駅では、編成の半分くらいがホームからはみ出して止まる。もっとも、客車のサイズが小さく、床も低いので、ホームがなくても乗り降りには困らない。
 以上でお分かりの通り、井川側先頭には機関車が付いていない。代わりに先頭のクハ600という客車には運転席が付いていて、後方の機関車を制御するようになっている(ドイツと同じ方式)。単に機関車の付け替えが面倒、というのではないらしい。25㎞で400m上るという、鉄道としてはかなりの急坂のため、万一、連結器が故障などして客車が切り離されてしまったら、止めることが出来ず、大きな事故になってしまう。そこで、常に低い側(千頭側)に機関車があるようにしているのだそうだ。
 アプトいちしろ駅では、5分ほど停車し、電気機関車の連結作業を見ることができる。その時、2本のレールの中央にある、歯型が付いたラックレールも見れるが、電気機関車の台車中央にあるはずの歯車は見えない。ラックレールは3重構造で、歯型が少しずつずれている。3枚ある歯車のどれかが、ラックレールを常に最も深く噛んでいられるように、という工夫らしい。
 もともと乗り心地を優先に考えた構造になっていないからだろう。客車の台車も、板バネを中心とした簡素な構造のもので、振動の吸収性能は低く、がたがた、ゴロゴロという揺れと音が大きい。D機関車のエンジン振動も伝わってくる。だから、客車特有の軽快感を感じることは出来ない。だが、この振動も、時速20㎞以下で走るからこそ風情として感じられる。
 私が乗った列車には、少なくとも三つの団体さんが乗っていた。編成が長いので、混雑というほどの状態にはならなかった。鉄道ファンだけでなく、一般の観光客にも人気のスポットだということがよく実感出来た。これだけ風景が美しければ、当然だと思う。
 帰路のSLはC11に旧型客車がなんと7両!そして、最後尾にE10というチョコレート色の電気機関車が補機として付いていた。私は10日ほど前に、インターネットで予約をしたのだが、発券窓口でちらりと見た予約者名簿には20組ほどしか書かれていない。どうも、それらの客は、すべて1号車らしかった。こんなに長い編成なんだから、空席だらけ。のんびり自由に座らせてくれればいいのに、と思ったが、途中の駅から驚くほどの数の団体さんが乗ってきて、2号車以降を使用しているようだった。事前の予約で乗客数は分かっているわけだから、補機まで付けて、7両編成にするからには、それなりに理由があるということだ。それでも、会社なりに配慮していると見えて、私はワンボックスを占領。余裕があるので、全然知らない人とは相席にならないように席を決めているようだった。なかなか心憎い。
 私が期待していたのは、特別な演出がないこと、逆の言い方をすれば、恐れていたのは、騒々しいイベント的な演出である。本当に残念ながら、千頭駅を出ると間もなく、女性の声による車内放送が始まった。いかにも、「沿線の全てを説明してやる」といった感じ、余計なお世話的放送のオンパレードだ。どうして世の中は、サービスと言えば「何かをする」ことだと考え、「何もしない」ことがサービスだということが分からないのだろう?と、すっかり興醒めして、腐りきっていたところ、なぜか2駅目に達する頃に、放送はぴたりと止まった。その後は、まったく日常的な、停車についての簡単な放送が入るだけになった。おかげで私は、この美しい沿線風景を、時速40㎞ほどで走る大好きな旧型客車に揺られながら、満喫することが出来たのだった。列車は定刻に、薄暗くなった新金谷駅に着いた。この3〜4倍の時間乗っていられたらよかったのに・・・。
 本当は、新金谷16:31という接続電車があったのだけれど、あまりにも窮屈なスケジュールで、千頭の駅前をうろうろする余裕さえなかったので、せめて一箇所くらいと、大井川鉄道本社のある新金谷で降りた。SLを転車台で回す光景を見たり、駅前にあるプラザ・ロコという建物で、展示してある昔のSL(大正時代に作られたドイツ・コッペル社製の1号機「いずも」と1275号機)や井川線の車両(16人乗りのスロフ1型)を見たりして時間をつぶした。そして、今はなき十和田観光電鉄7200系に乗って金谷に戻った。本当に楽しい1日だった。