生物海洋学の世界・・・ラボ・トーク第5回

 金曜日の夜は、ラボ・トークの第5回であった。新任校年度始めの学年会(夜の部)を欠席して、ラボに駆けつけた。今回の講師は、石巻専修大学理工学部教授・太田尚志(おおた たかし)氏。専門分野は生物海洋学である。
 実は、前々任校以来の私の山仲間である。そこで、太田先生と同じ職場に勤務するラボ・トーク主催者団のボス・坂田隆先生ではなく、私が事前のやりとりをしていた。2月下旬、太田先生から最初に届いた演題は「水面下の浮世事情 −春のざわめき−」である。私は、何がテーマなのかよく分からんと難色を示した上で、「海洋生物学ではありませんっ!生物海洋学です!!」を演題とし、若干の内容解説をぶら下げるという形ではどうか?と提案した。ご本人には一向にピンとこないらしいが、「海洋生物学」という分野が相当一般的なだけに、私(たち)のようなど素人に、「生物海洋学」という分野名のインパクトはかなり強烈なのである。2文字の前後がひっくり返るだけで、学問はどれほど性質を変えるのか・・・?最終的に、私の原案を太田氏は受け入れてくれた。
 ラボ・トークは、定員20名というとても小さなイベントである。実際には、当日キャンセルが出たりするので、25名まで受け付け、23〜4名の参加者で運営している。発行するチラシも、大抵はメール配信で、紙にするのはせいぜい50枚くらい(?)。なくても済むかも知れない。こんなもののために、何度もメールを往復させるのはバカげている、と普通は思う。だが、このチラシは、ラボ・トークの記録として価値がある、と私は思っている。まだ5回だが、5枚並べてみると、顔ぶれも含めてなかなか壮観である。
 さて、「生物海洋学」という言葉へのこだわりを話者に強調しすぎてしまった結果として、太田氏は「生物海洋学」とはどのような学問か、ということの解説から始めた。あまり具体性のない、分類学のような話が30分を超えたところで、私もさすがにまずいぞ、と思い始めた。講話の内容に注文を付けるのは、事前も講話中もなかなかに難しい。
 35分経過したところで、話者が「こんな感じで話してていいですか?」と主催者に顔を向けた瞬間、ボスが「よろしくない」とぴしゃりと言ったところで、話は本題とも言うべき方向へ動き始めた。ここから先の話は、正に太田氏の研究の具体的な話で、私としても驚きと発見があって面白かった。特にHNCL海域(栄養塩が豊富であるにもかかわらず生物の少ない海域)に鉄(25mプールあたり耳かき1杯分の鉄!!!)をまくと、生物が急激に増えるという話、生物が増えると連鎖して海がどのようになるか、というお話は、科学と自然の奥深さを感じさせるお話だった。つまり、「生物海洋学」とは、海にいる生物そのものを学問の対象にするのではなく、海にいる生物の量や動態を研究することで、物質やエネルギーが海の中でどのように動いているか、もっと簡単に言えば、海の状態を把握するための学問なのだ。環境問題や食糧問題が深刻さを増す今、今後ますます重要性の高まる学問であるだろう。
 ところで、ラボ・トークの当日、私は今まで椅子係だった。宮水の実習室にある木製のスツールがラボの雰囲気に合っているということで、20脚ほど拝借し(もちろん正規の手続きを踏んで)、車でラボに運んでいた。ところが、異動したものだから、それが出来なくなってしまった。電車の時間の都合で、主催者であるにもかかわらず、ラボに着くのは開会の10分前。代わって、もともとチラシ作りとお料理の係だった須田さんが、近所のイベントホールから椅子を借りてくることになった。結局私は、ほとんど何もしないままに、お酒だけはしっかり飲んで、参加者との交流にふけることになってしまったのである。なんだか少々情けないような、申し訳ないような複雑な心境である。・・・それでも、耳学問は面白いし、お酒は美味しいんだよなぁ。