博士号取得記(2)

 7月に第1稿を出した時は、えっ、こんなに早く読めるの?と驚くほど早く返事があったのに、今度はいっこうに返事がない。ついに2016年が暮れ、年が改まった。どうもこれはまずいぞ、と思い始めた。
 4月に相談に行った際、「学位を出せそうになかったら受け取らないで下さいね」とお願いしたところ、M教授は「当然だ」と言った。なにしろ学位の申請には相当額の審査手数料がかかるのである。事前に相談もなく、突然申請したならともかく、予め指導を受けているのだから、空振りというわけには行かない。
 M教授は、私の持ち時間が1年であることは知っている。もっとも、またも異動ナシということになれば、また1年延びるわけだが、そういう当てにならない話をしているわけにはいかない。私の集中力にも限界がある。母親の誕生日にも間に合わない。だとすれば、第2稿を少し手直しするくらいのことは出来ても、基本的に第2稿が受け取れないレベル、もう一回大改訂をせよ、ということになった時には、挫折に追い込まれる可能性が高い。返事がないのは、返事のしようがなくて困っているのではないか、という気がし始めたのだ。何か、別の目標設定を考えた方がいいかな、とも思い始めた。
 そうしたところ、1月10日頃になって、「このままの形で提出してよい」という連絡が入った。半分あきらめ、いろいろと次の策を考えていただけに、この連絡は嬉しかった。嬉しかったと言うよりは、ほっとした、というのが正しい表現だろうか。このようないきさつがあったから、5月11日に票決が行われ、学位授与が決まった時にも、昨日正式な通知を受け取った際にも、さしたる感動がなかったのである。一番嬉しかったのは、この「提出してよい」という連絡を受け取った時だった。
 ところが、ここから先もなかなかに難儀だった。ただし、論文の内容をどうするかという本質的な困難ではなく、事務手続き上の困難であり、困難の質は変わった。
 東北大学のホームページには「学位規定」なるものがアップされており、申請書類もダウンロードできる。今や当たり前のことだろう。ところが、ダウンロードした書類には変な書式が組み込まれており、少し字数が増えたりすると書式が暴れる。
 いよいよ提出という段階になって、体裁はどうしますか?少し読みにくいかも知れませんが、両面印刷にしていいですか?とM教授に問い合わせたところ、長い論文なので両面の方がいいだろうが、製本は必須だとの返信があった。聞けば、それが学位認定の後で国立国会図書館東北大学図書館に納本されるのだという。びっくり仰天である。そんなことは「学位規定」のどこにも書いていない。あわてて学校の近くの印刷所にお願いしたが、プリントアウトして綴じるだけ、所要2〜3日だろうという素人考えは甘かった。後から思えば、その印刷所の問題も大きかったのだが、結局、2週間以上かかった。
(博士論文は随時受け付けてもらえる。学位の授与も月に1回、研究科委員会という会議が開かれる時に可能。私はM教授から、学位審査を扱う各月の会議の日程を聞いていて、何月の会議に間に合わせるには何日までに出す必要がある、ということを言われていた。この製本問題で、会議にかけられるのが1ヶ月遅れたことになる。)
 2月2日に、直接自分で提出に行った。ところが、またびっくり仰天である。ホームページにある「学位規定」によれば、提出書類は論文、申請書、履歴書、論文目録、内容要旨、審査手数料の6つなのであるが、窓口では「大学院の過程を経ない者(論文博士)の学位授与の申請について」という冊子を渡され、それを見ながら確認すると、更に論文要約、戸籍抄本、CD(論文、要約、要旨のデータ)が不足しているので受理できない、という。しかも、要旨と要約は別の物で、それぞれに字数が指定されており、データも論文本体と要約はPDF、要旨はWord、一太郎ワープロソフトと指定されている。これまた「学位規定」のどこにもそんなことは書いていない。
 M教授の所に事情を説明に行くと、「最後のハードルを越えられないわけね?」と笑われてしまった。結局、2日後に不足書類を揃えて送り、週明けの2月6日にM教授に提出を代行してもらった。すると、更に、実は他に3枚の書類が必要だ、口頭試問の時に提出するということで待ってもらっているので、試問には印鑑持参で来るように、という連絡があった。申請に関わる情報の周知は本当に不親切である。
 「学位規定」によれば、論文提出後、1年以内に審査を終了しなければならないことになっている。これも驚きだ。逆に言えば、このような規定を作っておかなければ、1年以内に審査が終了しないことがあるという可能性を物語っているからだ。母親の誕生日に間に合わせるのはもはや不可能だが、さて、いつまでかかるのだろう、なんだかスッキリしないな、という思いでいたところ、2月の半ばには口頭試問についての日程調整が始まり、3月31日実施ということに決まった。(続く)