主権者に喝!!・・・道徳の教科化

 教員免許更新講習の「必修領域」というのは、昨日書いたとおり、日本の教育制度や海外の教育事情を教えると決まっているのだが、聞くところによれば、話の中で必ず「学習指導要領」に触れなければならないといった義務が課せられているらしい。いかにも文科省のやりそうなことだ。ま、これに関しては、大学ごとの講義内容の違いもよく分からないので、できるだけ近くで、と思って、石巻専修大学にお世話になった。以上。
 問題は昨日である。受付開始と同時に申し込んでまで行こうと思っていた宮城教育大学の講座とは、「道徳教育−p4c〈子供の哲学〉を含む−」というものであった。「道徳教育」というのは、「選択必修領域」に指定されている9つのテーマのひとつである。何かとうさんくさい教科「道徳」についても、「怖い物見たさ」で一応知っておきたいと思ったが、更に心引かれたのは、最近時々耳にする「p4c」である(←これについては明日ね)。なにしろ私は哲学を教えるのがライフワーク、哲学をこそ教科にすべきだという主義者なのである。「p4c」が果たして私が考えている哲学の授業を現実化しているものなのか、あるいは違うとすればどのように違うのか?自分の教育実践のために、積極的に学んでみたいと思った。
 午前中は「道徳教育」そのものについて、午後が「p4c」であったが、意外にも午前の授業が面白かった。越中康治という准教授(本来の専門は発達心理学らしい)が講師だったのだが、この方は人柄といい思想といい、なかなか面白い、もしくは優れた方である。アンケート(実習?)や例題の使い方も上手く、不謹慎にも私は二日酔いでひどいコンディションだったにもかかわらず、眠くもならず、楽しく90分×2の講習を受けることが出来た。
 その中で、道徳の教科化について昨年実施した教職員対象アンケートの話があった。道徳の教科化に関する基本的な問いに対して、保育者(29人)、小学校教員(54人)、中学校教員(14人)、高校教員(14人)から回答を得た結果である。分母が小さすぎて、これで本当に実態を正しく把握できているのかな?とは思ったが、ともかく、結果は以下のようであったらしい。(Q3以下は省略)

Q1:道徳の教科化について知っているか?
 知っている。保21%、小87%、中86%、高36%
 聞いたことはあるがよく分からない。保28%、小11%、中14%、高43%
 知らない。保52%、小2%、中0、高21%
Q2:道徳に検定教科書を導入することについて知っているか?
 知っている。保0、小69%、中71%、高7%
 聞いたことはあるがよく分からない。保14%、小26%、中29%、高50%
 知らない。保86%、小6%、中0、高43%
Q3:道徳で評価を行うことについて知っているか?
 知っている。保10%、小83%、中86%、高14%
 聞いたことはあるがよく分からない。保21%、小15%、中14%、高50%
 知らない。保69%、小2%、中0、高36%

 小・中学校が圧倒的に好成績で、保育者(保育所や幼稚園の先生)、高校教員は惨憺たるものだ。道徳の教科化や教科書・評価の問題などは、国会でさんざん問題となり、多くの新聞で特集記事が組まれた問題であり(7月22日朝日新聞「耕論」は秀逸!)、それらについて知っていることは、主権者の義務というものであろう。まして教育職にある人間が、道徳の教科化さえ知らなかったというのは、ほとんど犯罪レベルの無知である。小中学校の教員がよく知っているのは、小中学校で現に「教科・道徳」の授業が行われるため、職場で周知が図られているからに違いなく、それがなければ保育者や高校教員と同じ結果になるに違いない。いや、そのことを思うと、これらの問いに対して小学校教員で少数ながらも「知らない」などと答える人がいることは、正に驚嘆に値する。
 保育者や高校教員でも、一般の人から見ると知っている人の割合は高いだろう(本当かな?)。逆に言えば、一般の人はこれ以上に無知だということである。恐ろしいことだ。教育の国家統制が危険だとかなんとか言ってみても、国民が政府のやることを絶えず監視し、評価していかなければ、いくらでも不条理はまかり通ってしまう。なるほど、今の教育現場というのは、このような民意に支えられて存在するわけだな、と合点がいった。
 基本的なしつけというのは必要だが、それを超えて「道徳」を教科として勉強するというのはナンセンスだ。私はそう考えている。ただでさえも、あの手この手で今の学校は政府のプロパガンダに近くなっているのに、まして「道徳」がそのように機能しないはずがない。大切なのは、徳をひとつの形として教え込むことではなく、価値を問い直し、最善の選択を探し求めるという作業である。(続く)