演奏会で冷や汗をかく

 一昨日、勤務先の高校の吹奏楽部の定期演奏会に行った。ゴールデンウィークに開催予定だったものが、例のコロナ禍によって延期となっていたのである。それでも、延期で済み、開催できたのは本当によかった。3年生が、高校における部活動の最後を、成就感をもって終わることができるかどうかは重要で、そのためにも「なし」には出来ないイベントである。
 演奏会前日になって、副顧問の先生の実家にご不幸があったとかで、私は急遽、会場(受付)係を引き受けることになった。そのため、ネクタイ・ジャケット着用で開演の1時間半前に会場入りした。生徒はリハーサルの最中。一部のOGがロビーをウロウロしていた。彼女たちが1年生の時に、ほんの少しだけ「古典」を担当したことがあるだけで、「よく知っている」というほどの面々ではない。
 それでも、4人いた内の3人までは、かろうじて名前が思い出せた。残りの1人は、一切接点がなかったのだから、名前を知らなくても仕方がない。ところが次の瞬間、その1人から驚愕の言葉が発せられた。「私、先生のブログのファンなんですよ。」
 そもそも、この大量の文字がべったり並んだ私のブログを読める人は限られている。日頃、誰かに向かって宣伝することはない。特に職場の人間(教員も生徒も)には言わない。なぜ、彼女がこのブログの存在を知ったのか?彼女の言葉に対する驚きが大きすぎて、私はそれを尋ねてみる余裕も失っていた。単なるリップサービスではないようだ。昨年の定期演奏会の感想(→こちら)の中で、演奏会が長すぎるといった指摘をしていたことを、彼女が憶えていたからである。いやぁ、怖い、怖い。
 さて、私が現場監督を仰せつかった受付や当日券売り場は、別のOG3名の担当である。非常に礼儀正しく、挙措動作の美しいOGたちなので、特に心配も指導も必要はないが、定刻に演奏が始まった後も、ポツポツと客が来るし、何しろ玄関なので無人にするわけにもいかない。更に、担当のOGたちは、第3ステージで自分たちも演奏に参加するということで、第2ステージの途中からいなくなってしまった。というわけで、結局、私は最後まで1秒も会場に入れず、天井のモニタースピーカーから流れてくる演奏を聴いていたのであった。
 ところが、このモニタースピーカーが意外によくできていた。私は、音が平板・単調になるという理由で、音響装置を通した生演奏の音というのが大嫌いである(ギターの演奏会などで時々ある)。ところが、この日はさほど違和感がなかった。ホールの扉が開け放しになっていて、そこから中の音が聞こえてくるような感じに聞こえた。さほど音量が大きくないこともあって、さすがに細部までは聞こえなかったけれども、音楽そのものはけっこう楽しめた感じがする。
 13:30から始まった演奏会は、途中、約10分の短い休憩を2度挟み、アンコール2曲も含めて15:40に完全に終わった。昨年は3時間だったから、今年はとてもテンポよくすっきりと進んだ(=間延びのない)感じがした。私は昨年、確かに「長い」「2時間に圧縮すれば更にいい演奏会になっただろう」と書いた。まさか、私のそんな作文を意識して、プログラムを絞り、生徒の話を端折って2時間にした、ということはないだろうが、結果だけ見ればその通りになったということである。なんだか、余計なことを言って無理をさせたような申し訳なさを少し感じた。
 常連のお客さんが、時間に関して今年の演奏会をいいと感じたかどうかは知らない。生徒には、何かをやり残したような、燃え尽きていないもやもやが残ってはいないだろうか?そんな心配をしかけていたところ、終演後、会場から飛び出してきた生徒たちは、はじけるような笑顔だった。私は、ほっと胸をなで下ろしたのであった。